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渡辺 杜太朗
2020年9月30日 23:15
踏み込んだ意識のなかはとても果実の中とは思えないほど硬く冷たい部屋だった外の皮は橙に艶めいていて、争いの大半の火種となっている果実の中は象の足のように硬いとも知らずこの木になる果実全てが私達を惑わす火薬庫だと思うと私の意識は果実のなかに飛び込んだことを後悔し朽ちたそれを見た天空の子供は使命を忘れ隠れんぼに興じたそのせいで雲が動かなくなると太陽が満遍なく大地を照らさな
2020年9月30日 11:21
砂浜からは鑑賞できない遠い岩場までは誰も行けないそこに人魚が住んでいるのはこの町に産まれたときからみな知っている幾人もの探究者が岩場を目標に船を漕いだが一人残らず途中の水面で命の波紋が止まっていった空を飛べる探究者は濃霧に頭を抱え込んだみな人魚にあったらなんて言うのか私には検討がつかなかった岩場からみるこちら側は自由な憎しみを持て余しているとでも思っているのだろうそれ
2020年9月29日 01:07
ダムの底を覗き込んだ緑色の大きなドブは私の生活を支えている文明とはなんて素晴らしいのかそれは犠牲を差し出しても次の彫刻を掘り進めるからだその犠牲は無駄ではないと彫刻家達は口をそろえるが泪が一粒でもそのダム底に沈んでいるのならば私はその水を飲もうとは思わないもし塞き止められない花火の様な感情が水中に咲き乱れるのであれば私は鷹になって傍観する人食いになろう翼
2020年9月26日 13:34
風船は私の人間的肉眼ではもうとらえきれない高さまで飛んでいった少女が離した手はとても寂しそうで中指と薬指がそのことでケンカをしている少女はそのことをとても嫌がっていたが躊躇もなく母の頭の中のことを考えケンカしている右手を背後に隠したそれでも少女の笑みで母が疎ましく思ってはいけないと私は余計な心配をした母の心声ひとつで変わる少女の人生の枝葉のことは私には関係のない
2020年9月24日 18:16
私の背中から首筋にかけて流れる血脈に無理やり誰かが野菜の種を植え付けてきたのはもう何年も前のはなし私はなんの絵画とも似つかない不安を自室の壁に飾って過ごしてきましたある冬殴り裂かれた私の身体に農薬を撒かれて泪がでましたはじめてみる冬の南瓜の蔓は首の中から頭にむかって伸び進みつむじから頭を破り実りました農薬散布からほんの一瞬のことです手脚は震え掻き
2020年9月23日 20:10
ここは湿り気のある埃で鼻が痒くなる部屋長方形に長く入り口はその長方形の短い辺にあるそこから辺の奥を見ることはなにが詰まっているかもわからない箱の山や腐った使い物にもならない箪笥が邪魔をして困難だそれよりも私の目の前にぶら下がる祖父の身体がなにより一番の邪魔をしている埃でつい瞬きが多くなるが何度眼を閉じても祖父はそこをどいてはくれない私は湿気のある季節でよ
2020年9月22日 18:07
巡る夜は泪を隠しただただ私に想いをよせる私はずっと太陽が嘘をついていることを知っていたので大きな声で巡る星々の痛みを俯いた青年に大きな声で伝えたあとは青年に任せて私は踊ろう
2020年9月20日 14:21
だれからも文句を言われる亀は頭を隠しずっと考えていたじっとしているようでじっとしていない炎を消すには己の頭を外界に出し息を吹きつけるのではない誰かが来るのをまつのみだと
2020年9月18日 20:15
私の上には屋根がある雨には濡れずにいるけれどあいつの上には屋根がないシャツが濡れて嫌いになってたそいつの隣ではきれいな赤い傘をさし男が女の肩を抱く子供を迎えにきた母親の車に入るほんの一瞬女の子は雨に触れた私の上には屋根がある傘も車もないのけれど止めば人の森に紛れるさ
2020年9月16日 21:52
巡る夜は涙を隠し打ち寄せる水群の音だけを私にくれたそれは小さな箱庭の浜辺に神が泪を落としているようだ私は幾重に繋がる水中線の下に暴れる海豚の拳をみた拳のだす気泡は水面にはばれたが泡ぶくは夜があけるまで誰にも気づかれないだろう
2020年9月15日 17:45
顔が右に歪み、舌をつっぱりだす私の顔は世を嘲笑っているかの様にみえているのかそう思うと言葉でしかわかり合えぬ我々はとても下等な生き物だと感じるそれではさよならもう逢うことのないひと私は海馬が小さいため刹那の記憶は灰になるしかし、私の右に歪んだ異形な顔をあなたは忘れることは出来ないだろう舌をつっぱりだしたとき、私はいつも閻魔を呪う舌を抜くのは泥で濁った水たまりに落ちた
2020年9月14日 16:15
痰が喉に詰まって食事の時間も長くなるある日は夕日が焦げるまで朝食を食べていた喉に詰まったいもは褒美から罰に変わって逆行していくみかねた妻はいつも言う薄い味付けは痰と相性がいいからすぐに胃に落ちる気がつけばいもは小石の様に胃の奥で溜まっていた私はよろこび、眠りについた
2020年9月12日 21:36
月には私の小さな家を建てる星には私の大きな家を建てるほらみたことか月にはたくさんの友達がひっこしてきて星は私だけの楽園になった
2020年9月9日 17:11
神社の小石を持ち帰った男は、陽が呆れてもいつも歌う謡い続けて疲れて眠るが、夢のなかでもまだ歌う今朝も妻の焼いた魚は歌っていたので冷めていたどこかの誰かの願いが詰まり、破裂するから歌になる男はいつも神に祈るが、相手にされずにじゃりせん投げる小石に住う魍魎はもう満足しているだろうこの男が生きているかぎり