黙鱗

砂浜からは鑑賞できない遠い岩場までは誰も行けない
そこに人魚が住んでいるのはこの町に産まれたときからみな知っている

幾人もの探究者が岩場を目標に船を漕いだが

一人残らず途中の水面で命の波紋が止まっていった

空を飛べる探究者は濃霧に頭を抱え込んだ

みな人魚にあったらなんて言うのか

私には検討がつかなかった

岩場からみるこちら側は自由な憎しみを持て余しているとでも思っているのだろう

それとも聖人のような眼で見守っているのか

殺意で声もでないのか

悲しみで盲目なのか

私には人魚の歌さえ聴こえない

私個人の思考だけでは対話する資格はないと感じる

しかしながら私も人間という欲望の波の上を泳いでここまで生きてきた

私は入れ物をこの浜辺に捨てていこう

魂だけなら許してくれるはず

そう思ったのは寒い海辺の痛い釘砂のせいだ

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