詠まない本の栞

風船は私の人間的肉眼ではもうとらえきれない

高さまで飛んでいった

少女が離した手はとても寂しそうで

中指と薬指がそのことでケンカをしている

少女はそのことをとても嫌がっていたが

躊躇もなく母の頭の中のことを考え

ケンカしている右手を背後に隠した

それでも少女の笑みで母が疎ましく思ってはいけないと私は余計な心配をした

母の心声ひとつで変わる少女の人生の枝葉のことは

私には関係のないこと足元に咲いている花を押し花にして読まない本に挟んでおいた

少女の中指は少女自身をかばい一際影を潜めたが

薬指は母の頭の中が絡まっていくのを察し

声を出そうと必死になっていた

少女は左手で右手を強く包むと

笑みの仮面の中でももっとあどけない仮面をちいさな手下げ鞄からだし

そっと付け替えた

母はなにも考えていない風船に心が揺らされるたび

少女の仮面を殴打した

少女は今日も母の頭の中のことだけを考えている

私はそれをみては声を出そうと思ったが

風船がもう見えないところへ逃げてしまったので

私の身体ごと明日に逃げた

栞を挟んだ本を置き去りに

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