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嘘日記

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全部嘘で日記を書いています。 日記をまともに書いてこなかったので、体裁として日記になっていない部分が弱点です。 1000文字程度の短いストーリー集としてお楽しみ下さい。
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2023年5月の記事一覧

噓日記 5/9 洒落っ気

噓日記 5/9 洒落っ気

say 小納言。
殺してくれ。

つまらないことを言うとつまらない人間だと思われる。
頭の中では誰にも負けない面白いもの、楽しいものが浮かんでいるはずなのだ。
ただ、それを言葉にして誰かに伝えようとする度に私の言葉は陳腐になっていく。
枝のように細ったユーモアは誰の胸も打たないし、だれの心にも染み入らない。
誰かを笑わせたい、そしてそれを見て自分も笑いたい。
そんな気位だけは人一倍あるのにその理想

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噓日記 5/3 ストレスと奇声

噓日記 5/3 ストレスと奇声

私はストレスが溜まると奇声を発する。
体の中に溜まったストレスをそのまま奇声と共に吐き出すのだ。
この日記は後に奇声に迷うことがあった際に読み返すための備忘録である。
奇声にはルールがある。
それはストレスの種類にもよるが、その最適を自分の中で自然と選択し、声として表す。
その際のラグを減らし、自分のストレスを即座に掻き消す必要があるのだ。
五十音の中で最適なタイミングを記す。

驚いた時
あ、ま

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噓日記 5/31 本屋にて

噓日記 5/31 本屋にて

本屋に行く時、私はしばしば無鉄砲になる。
名前も聞いたことがない作家の作品や、表紙が綺麗な作品、タイトルが気になった作品を必要以上に考え込まずに買ってしまう。
もちろん、その結果イマイチ私には合わない作品とも多く出会ってきた。
だがしかし、私はこの買い方を長い間繰り返してきたのだ。
もともとは、自らが望むパーツを持ちうる作品を読み、吸収し、その好悪を判別することで自分の好きという気持ちをより明確に

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噓日記 5/30 雨が降ったから

噓日記 5/30 雨が降ったから

雨が降ったから、ベランダで缶一本分だけ酒を飲む。
昨日から降り続く雨で夜空は黒い雲が覆っているし、今もシトシトと雨は降り続いている。
冷蔵庫で冷やしたキンキンの缶チューハイを片手にベランダに出て、空を眺めて、一口だけゴクリと飲み込む。
結露に濡れた缶を握る指から肘にそっと雫が流れていく。
冷たい指で体を撫でられたようで、ビクッと体を揺らしたが、その出所が直ぐに予測できたので一瞥もせずに空を見続ける

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噓日記 5/29 コンビニ

噓日記 5/29 コンビニ

コンビニって便利だな、そう自然に感じることが難しいと思えるほど日常に寄り添うコンビニ。
あえて今日はそのコンビニの便利さを再確認したい。
いつでもなんでも売っているという利点は、俺をいつも支えてくれる。
例えば、腹が減った休日の昼。
ちょっと行けば簡単に弁当やおにぎりが手に入る。
だんだんと上底になってきているなんて下世話なことは言ってはいられない。
上がった底は実質的な値上げの証、俺はただ受け入

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噓日記 5/28 バスカーでハイボールを

噓日記 5/28 バスカーでハイボールを

日曜の夜、明日から平日ということもあって現実を直視しないために酒で現実逃避する。
飲むのは最近ハマっているバスカー。
ハイボールにしてグイッといただく。
つまみはスーパーで買ったパック寿司。
あえて、こういうほどほどのプチ贅沢がなんだか社会人なのだと、人間なのだと再確認させてくれるような気がする。
平日に疲れた大人の振る舞いをコピーしているのだ。
我々は大人になると属するコミュニティで自分を確認す

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噓日記 5/27 漫画を読む、あしたの夜

噓日記 5/27 漫画を読む、あしたの夜

漫画を読む時、私は普段より勇敢になる。
そして時に臆病になり、聡明になり、愚かになる。
漫画を読むという体験は主人公、もしくは登場人物に人格を憑依させることでより一層のエンターテイメント性が生まれるのだ。
私はその瞬間に彼らとなり、彼らの決定や判断を自己の中でも反芻し、それらに一定の解釈を求めることであくまで私としてもそれらの行動に対して納得するという作業を行うのだ。
そうすることによって、自身以

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噓日記 5/26 文学のすゝめ

噓日記 5/26 文学のすゝめ

天は人の上に人を造らず。
その言葉ばかりが取り沙汰されるが福沢諭吉が言いたかったのはそこじゃない。
その言葉はアメリカ独立宣言を翻訳した自著の西洋事情から引用されたものであり、本文中では否定されている言葉なのだ。
諭吉はむしろ平等に生まれたはずの人間にも差が生まれる、その差を埋めるのは学問であると説いている。
まさしく耳障りのいい言葉だけを安直に読み解いた学のない人間が、慰めのように人の上に人を造

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噓日記 5/25 武蔵祐一郎受刑者の獄中記

噓日記 5/25 武蔵祐一郎受刑者の獄中記

椅子を笛にした〜い!
さて、今日の俺はギラギラしていた。
ただ、部屋の中から出ていないのでただ一人目つきが悪いだけなのだが。
朝起き、オートミールとヨーグルト、冷凍のブルーベリーを食べ、市販のグリーンスムージーを飲み干して俺の一日が始まった。
胃弱のOLみてぇな飯だなと思われるだろうが、しょうがない。
俺は胃弱のOLに飼われたいという願望があるからだ。
ロールプレイというのだろうか?
胃弱のOLに

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噓日記 5/24 道程

噓日記 5/24 道程

今日も今日とていつもと変わらぬ道を行き、今日も今日とていつもと変わらぬ道を帰る。
高村光太郎が言った「僕の前に道はない」なんて言葉は私の生活が酷く惨めであると私に気づかせる。
私は私が歩んだ道を行っては戻って、行っては戻って。
始発点からその終着点が望める程度の短い直線の上を行ったり来たりしているだけで、私は日々を繰り返す。
力を持たぬまま与えられた役割に真摯であろうとした男がアイデンティティにつ

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噓日記 5/23 あだ名という悪魔

噓日記 5/23 あだ名という悪魔

あだ名というのは残酷なものだ。
名前からとったあだ名ならまだしも人の肉体的・精神的な特徴を論ってつけられたあだ名はいとも容易く日常に溶け込み、そのあだ名をつけられた人間の人生を蝕んでしまう。
あたかもその特徴的な部分がその人物の全てであるかのように錯覚させる魔力をあだ名は持っている。
それを呼称する人物も、それを呼称される人物もいつの間にかその魔力に充てられて錯覚を重ねていく。
蝕まれるのは日常で

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噓日記 5/22 湯船に浸かること、浸からないこと

噓日記 5/22 湯船に浸かること、浸からないこと

湯船に浸かることは何か宗教的な儀式のような厳かさがある。
体の汚れだけでなく、どこか精神の穢れさえも洗い落としてくれるような神聖さを孕んだその動作が日常のシステムに組み込まれていることに、私は言い表せられない人類の叡智を感じる。
しかし、昨今では徐々に湯船に浸からない人々が増えてきている。
それは平均的な世帯人口が減少したことから湯を張るコストよりもシャワーで済ませる方が安上がりなことや、オール電

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噓日記 5/21 バトルシティ

噓日記 5/21 バトルシティ

俺はよく休日に飲み歩く。
普段彷徨いている繁華街はもはや俺の庭とも言えるだろう。
そして俺はその庭をバトルシティと呼んでいる。
酒で理性を失った男たちは皆、原始に帰る。
体が闘争を求めるのだ。
戦うことでしかもう自分がここに居る理由がわからない。
自分がここに居る理由を追い求めて目の前の男をただ打ちのめすのだ。
今日もそうだ。
行きつけの立ち飲み屋で飲んでいるとカウンターに見知らぬ男が立つ。
その

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噓日記 5/20 知らない電話番号

噓日記 5/20 知らない電話番号

知らない電話番号から電話がかかってきた時、我々はどうしたらいいんだろう。
今日はそんな知らない番号からの電話について俺が体験した話だ。
俺は普段知らない番号から電話がかかってきたとしても切れるまで待ち、その番号を検索して保険の案内だとか面倒なものじゃないかを確認するようにしている。
そんな知らない番号から今日、着信があった。
昼の十三時ごろ、休日ということもあって目が覚めてしばらくした頃だ。
知ら

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