自分の「うつ」を他人に「隠している」あなたへ
自分が「うつを発症している」と打ち明けるのを躊躇う人がいる。うつになるということは、何か恥ずかしいこと、恥じるべきことだとして引け目を感じることらしい。
① うつは「恥ずかしくて言えない」病気なのか
ここには二つの含意がある。一つは「うつは『弱い人』がなる病気だ」という前提だ。もう一つは「打ち明けることによって、自分のような『うつになった弱い人』を助けるように、相手に強要することになってしまうのではないか」という躊躇いである。
② うつは「ドン引きされる病気」なのか
では先ず、後者の躊躇いから考えてみよう。「もしも『自分はうつだ』とカミングアウトしたら、相手にドン引きされてしまうのではないか」という躊躇いである。
だが、本編サイトでも書いたとおり、うつは「誰でもなる(可能性のある)」病気だ。発症の契機と原因は人によって千差万別だし、万人必中の有効な治療法もない。治療法も人によって千差万別なのだ。
だから事前の予防は不可能だ。どんな個人にも、無意識下には自己認識できていない盲点や死角が必ずある。そこを衝いてうつは発症するからだ。うつになるのか、ならないのか。それは当人の価値観と環境との組み合わせ次第だ。
おまけに同じ組み合わせが揃ったとしても、必ずしも発症するとは限らない。それが発症の契機になるのかどうかは、それまでのその人の人生と経緯と時間からみて、どれほど不可避な矛盾であるのかどうかで決まる。
つまり自分がうつになるのか、ならないのかの予測は不可能だ。うつになるとしても、いつなるのか、その時期も予見できない。
③ うつは「こころの難病」
予防も予見もできなければ、決まった治療法も無い。うつは謂わば「こころの難病」なのだ。
では、そもそも「難病」とは何なのか。厚生労働省のサイトを覗いてみよう。ここには所謂「指定難病」の病名一覧が載っている。
●厚生労働省のサイト
ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 健康・医療 > 健康 > 指定難病
指定難病病名一覧表[Excel形式:26.4KB]
この一覧表の中には、あなたも聞いたことのある病名が幾つかあるのではないだろうか。ここで、個々の病名について例示するのは避けるが、ではこれらの「指定難病」と闘病中の人たちは、自分の病気についてどう感じているのだろうか。
病状によっては日常動作に支障がある場合も有るだろうから、その際には介助を頼むことはあるかもしれない。だが、そのことについて何か引け目を感じたりすることはあるのだろうか。
いやそもそも、ご自分の病名をカミングアウトすることに躊躇いを感じたり、「相手がドン引きしてしまうから」などと病気のことをひた隠しにしたりしているのだろうか。
そんなことはあるまい。病気なのだから仕方がないことなのだし、生活習慣病ならまだしも、そもそもこれらの病気になったのは本人の責任ではない。ましてや、自分が「弱い人間」だからその病気になったのだと考えている人など、誰も居ないことだろう。
病気になったことに関して、自分が「弱い人間」だからとか何か自分に責任があるような引け目を感じているのは、うつになった人だけなのだ。
④ うつになったのは「自分のせい」なのか
ではなぜうつになった人だけが、自分に責任があると感じてしまうのだろうか。
キーワードは「弱い人」である。では「弱い人」とは何か。
繰り返し書いているように、うつの原因は、当人の(内心の)価値観と周囲の環境との衝突や矛盾である。つまり周囲の環境(家庭でも親でも職場でも学校でもいいが)と何らかの衝突をした人が、うつを発症する。
⑤ 「周囲」とは所詮「他人」の集まり
つまり「弱い人」とは、「(自分の)周囲と(何らかの)衝突をした人」のことである。
では「周囲」とか「環境」とは何なのか。「社会」とか「世間」と言っても良いのだが、所詮それは「他人(の集まり)」のことである。
つまり「周囲と衝突をした人」とは、「他人(の価値観)と衝突をした人」のことである。
ここで重要なのは、個人の価値観には上下軽重の差別は無いと言うことだ。平たく言えば「お互い様」だということだ。人はそれぞれ、十人十色。(相手に迷惑をかけない限り)どちらの価値観が正しいとか間違っているとか、決め付けることはできない。
「ここではそんな考え方は通用しないよ」とか「世間知らず」とか言われても、ちと困る。
それは偶々そのような価値観の持ち主が、その場での「多数派」だと言うだけのことだ。或いは、異論を認めない不寛容な価値観の持ち主で多数派が固められている、というだけのことだ。
個人の価値観が間違っているとか正しいとか、他人様から多数決で決められても困るのだ。多数派だから正しい価値観だと言うわけでもないし、少数派だから間違っていると決まっているわけでもない。
「郷に入れば郷に従え」と反論する人もいるかもしれない。だがそれは所詮その集団が「ムラ社会」を作って固まっている、というだけのことだ。
⑥ 「ムラ社会」の貼るレッテル
では「ムラ社会」とは何か。
簡単に言えば、所謂「同調圧力」によって異分子や少数派を排除して、「同質性」を維持したがる集団のことだ。平たく言えば「『みんな、同じ』が良いことだ」と思っている人たちの集まりのことである。
本編サイトで書いた図を再掲しよう。これでイメージしていただけるだろうか。
あなたは「他人と衝突」したのだから、この「ムラ社会」に逆らった訳である。「ムラ社会」の「同調圧力」に従わず、その「同質性」を壊してしまったのだ。
これは「ムラ社会」にとっては、言語道断の「掟破り」である。そんな異分子や少数派は断固排除しなければならない。「わがまま」とか「甘ったれ」とかレッテルを貼って、謂わば「出来損ない」扱いをしなければならない。
⑦ 他人のレッテルを信じるな
実はこれは「弱い人」という引け目を感じる理由なのだ。
「わがまま」だとか「甘ったれ」だとか、自分に対して「ムラ社会」から貼られたこのレッテルを、あなたはつい真に受けてしまったのだ。「弱い人」というのは、このような「わがまま」や「甘ったれ」などのレッテルの言い換えなのだ。
自分は自分、他人は他人。私は私、貴方は貴方。価値観の違いはお互い様なのだ。他人と価値観が違うからと言って、詰られたり罵られたりする謂れは無い。
それでも「ムラ社会」は何とかしてレッテルを貼ろうと追いかけてくる。実にしつこい。だがこれこそが「ムラ社会」の「同調圧力」なのだ。だがいくらしつこかろうとも、そんなレッテル貼りに真面目に取り合う必要は無い。
本編サイトで書いた別な図を上記に再掲した。これでイメージしていただけるだろうか。
⑧ 「弱い人」ではなく「弱っている人」なだけ
「自分は『弱い人』だ」という声は、あなたの心の中にある。だがそれは、あなた自身の声ではない。他人から貼られたレッテルなのだ。
したがって、あなたの心の中には、自分自身の考え方を貫き通そうと言う自分自身の声と、「自分は『弱い人』だ」という声とが喧嘩している状態である。これがうつ発症の原因となっているのだ。
おまけに、その「自分は『弱い人』だ」という他人のレッテルを持ち込んだのは、あなた自身である。だから、あなたのうつは中々治らないのだ。
なるほど、うつは気力を破壊する病気だ。だから今うつに悩まされているあなたは、甚だしく落ち込んでいて、事態を打開する気力も失せている。
しかしそれは病気で「弱っている人」だからなのであって、「弱い人」だからなのではない。病人なのだから、弱りこんでいるのは当たり前なのだ。
となると、うつになってしまったあなたは「弱い人」なんかではない。あなたがうつを発症してしまったのは、それまでの人生行路の偶然でしかないのだ。
⑨ カミングアウトの障碍
なるほど。うつになったことは、別段恥ずかしいことでもないし、自分が「弱い人間」だったからでもない。
だとすると、「自分はうつだ」と堂々とカミングアウトできそうなものだが、現実には、ちとそう簡単には参らぬ。なぜか。
そのカミングアウトには、或る障碍があるのだ。いったいその障碍とは何なのか。またその対処法はあるのか。
だが、今回は字数が多くなったから、これについては後日に稿を改めて書くことにしよう。
⑩ この記事に関連する本編サイトのページ
●第2部 うつは 「治る」!>第3章 山あり谷ありの「すごろく」廻り>11)うつの「予防」はできるのか(まとめ:うつは誰でもなる病気か?)
●第3部 あなたは「新型うつ」である>第2章 うつを生み出す国「ニッポン」>1)「ムラスタン人」と「ワカスタン人」
●第3部 あなたは「新型うつ」である>第2章 うつを生み出す国「ニッポン」>3)否定される少数派民族
最後までお読み戴き有難う御座いました。
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