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夏の風
夏の風が吹く庭の
片隅に転がっている
枯れた紫陽花の鉢
乾いた土ごと取り出そうと
敷石にゴンゴンと当てたら
鉢がひび割れてしまった
ひび割れは夏の風に押されて
庭から道路へ伸びて行き
田んぼや野山を走り抜けて
遙か遠くの積乱雲を浮かべた
青い海に沈んで行った
とうに見失ってしまった時間と
もう叶うことのない願いと共に‥‥
「干乾びた花と茎を切り落として
紫陽花の株を庭に植えましょう」
そう言って笑う君の声は
風鈴よりも涼しいから
私はカレンダーと天気図と
星の巡りに従って
紫陽花の株に水をやる
カンカン照りの夏が来ても
なかなか乾いてくれない
私の湿ったこころ
君はそれを夏の風に晒して
よく乾かした後で
真っ白い洗濯物と一緒に
縁側に取り込んでいる
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