螺旋階段をのぼっていた 恋人とふたりでのぼっていた 永遠に終わらないんじゃないかって程に 果てしなく長い螺旋階段だった ずいぶん長い間のぼり続けていた そのうち何のためにのぼり続けているのか 全く不明であることに気がついた 後ろにいる筈の恋人に尋ねようとしたら いつの間にか居なくなっていた 男と女の関係なんて所詮そんなもの 捨て鉢な気分で空を見上げると それまで覆ってた深い雲は途切れ始めていて 刹那、少し開いた雲の隙間から 一条の光が差しこ
今日は少しばかり気取った心持ちで、できうる限りの朗らかな表情をつくり、いくばかの小銭をポッケに突っ込んで、都会の街を歩いてみた。ただ闇雲に、輝かしいネオンに色付けられた街並みを彷徨い歩いた。ほかにやりたいことなんて、ひとつもなかったから。「家族円満」なんて言葉はもう聞き飽きた。「永遠の愛」なんて言葉はこれっぽっちも共感できない。どうしていつも、こんな後ろめたい気持ちになってしまうのか。間違った人生を歩んできたつもりはない。甘ったれた歳の重ね方をしてきたつもりもない。なのに、そ
猫の行動にはあらゆる謎が隠されている。その中でもとりわけ、僕が食事を始めると猫がトイレでウンコをし始めるという不可解な行動について、僕は戸惑いを隠せない。夕食の時間、腕によりをかけてこしらえた料理の品々と、近所の酒屋で厳選してきたうまい酒をテーブルに並べ、さあ舌鼓するぞという至福のひとときに、ふと視界の隅を横切っていく白い影。しばらくの沈黙の後、ざくざくと砂を掻く音、程なくテンション高めに飛び出していく猫様。そして漂ってくる忌々しい臭い…。 いったん箸を置き、猫様の
映りの悪いカラーテレビ メンヘラ歌手は歌う 恋愛至上主義 わるい薬を飲みすぎたせいで 心に溜まる濃厚な沈殿物 お湯を注いで約3分の即席恋慕に 手のなる方へと理性が散らばる 致命的欠落の頭の中では 壁に貼り付けた不安定な詩が 音を立てて落下しています 「誰よりも君に愛されたいの」 だから彼女の歌う姿を見ていると 脳内シナプスが腐ってしまいそうです
「多様性」という言葉がもてはやされる昨今の風潮が苦手です。べつにマイノリティを蔑ろにしようなんて意図も、マジョリティを賛美したいなんて思惑も、これっぽっちとして持ち合わせておりませんが、「多様性」という言葉を盾に振りかざして、あれもこれも許容してもらおうとすることが良しとされる近頃の世相がたいへん遺憾です。仕事を遅刻するのも多様性。あいさつしないのも多様性。旦那が家で無気力ニートするのも多様性。嫁がヒスってSNS炎上させるのも多様性。人の家の庭でウンコをするのも多様性。そのウ
米が売ってない。どこにも売ってない。相違なく売り切れ。致命的に入荷未定。完膚なきまでに販売停止。そうですか、米ないんですか、とあっさり引き下がるのはイヤなので、炎天下の中必死こいて街中のスーパーやドラッグストアを奔走していました。汗だくになりながら数時間、やっとこさ、よく知らないドラッグストアで、コシヒカリ5kgが売り場でポツンと置かれてるのを発見。とりあえず写真を撮ってSNSにアップして自慢します。「米が買えないって巷で話題になってますけど、私の近所では普通に売ってまし
公園で待ち合わせだよ ぼくはひとりの世界にこもって 砂場で泥団子をつくるんだ 大きなお山もつくるんだ そしたらきみが それらを踏み潰すんだよ 笑いながら踏み潰すんだよ ぼくをぼこぼこにした後 わたしと遊ぼうって 嫌がるぼくの手を引くんだよ 1993年の夏の日に まだ涼しかった夏の日に 自分の未来なんて 微塵も理解っちゃいない 天真爛漫なきみとぼくは 死にたい死にたいと呟くきみを見つけて どうしてどうしてと泣いていた そこを左へ曲がってすぐ 商店街に入ったところの果物
青く澄んだ空を見上げれば 白いシャツが一枚 笑顔でひらひら飛んでいる ああこんなにも素晴らしい 透き通った世界が広がるのに 君は安定剤の飲み過ぎで あまり安定とは言い難い状態 漂白された声がきこえる 遠くからきこえてくるのか 僕のそばからきこえてくるのか ふんわり溶けた風が吹いて それさえも曖昧になる 明日のにちようび 君はきっと僕を刺し殺そうとするだろう 僕はあの空を舞うシャツのように ひらりひらりとかわしてみせる
たばこを吸って けむりをはいて ゆらゆらのぼって やがてふっと見えなくなって けむりはどこへいったんだろう お空の雲になったのかな まっしろでふわふわかな でもたばこくさいのかな そんなばかげた話をしていたら まるでたばこのけむりのように あなたはいなくなってしまった お空を見上げて あなたの真似して たばこを吸ってみたり けむりをはいてみたり さようなら わたしのけむり またね かなしいけむり なみだがあふれてしまうけれど 今日のお空は ばかばかしいくらい 雲ひと
今日も罪悪感という名の針千本が空から降り注いで、きみの自己肯定を殺します。豆腐のようにデリケートなきみの自尊心を無慈悲に切り刻みます。生きてたって虚しいだけ。わたしみたいな駄目人間、いっそのこと消えてしまえばいいんだ。そんな希死念慮たっぷりの戯言をきみはnoteに書いちゃったりするのかしら。闇が深い物騒な秘め事、書いちゃったりするのかしら。その気持ち、よくわかります。書いたって楽にはならないと思うけれど。 自分を愛せない人たちって大抵、人として大切な何かが致命的に欠落してる
ほこりまみれのテーブルに 酸化して濁った紅茶と 粉々になったビスケット ふたりテーブルを囲んでる 会話のひとつもなく お茶もお菓子もろくに手をつけず ただわざとらしく 口をぽかんと開けている 空白のひととき 目を合わせようともせず 天井のよくわからない虫 ふたりで眺めていたら どれくらいの時間がたっただろうか 気がつくと なにもしていないのに 服が全部溶けてなくなっていた (とても寒い) ふたりで紅茶を飲んだ とてもやわらかい 牛乳を拭いた雑巾の味に似てる ほそい
「初デートで気をつけるべきこと」 そもそもデートの約束を取りつけたからといって浮かれてはいけません。恋人なんてできないし、仮にできたとしても、それは君を破滅に追い込む悪辣な回し者だから、決して心を許したりしてはいけません。肉親と恩師だけが心の拠り所であることを存分に理解したうえで、あとはアニメや漫画の美女や美男のイラストにばかり想いを馳せていればいいのです。老舗洋食店の絶品シチューが、暗く冷たい厨房でじっくりコトコト何時間も煮込んで熟成していくように、君も陽光の当たらない
さあ私と遊びましょう。一緒にポケモンGOをしましょう。中之島の薔薇園あたりで高貴な気分に浸りながらモンスターボールを投げる休日なんてどうかしら。日が暮れたらスペインバルでワインを嗜む晩餐なんてどうかしら。食事を楽しんだ後は、土佐堀のドブ川を眺めながら、我らの輝く未来について語り合いましょう。それはきっと素敵で有意義なひとときに違いない。どうです貴方?え?知らない人と遊ぶのは抵抗あるですって?そんなこと知ったこっちゃありません。知っててどうするんですか。私だって貴方の身の上なん
はじめは軽くひとりで飲むだけのつもりだった。その居酒屋はもの静かな佇まいで、普段ひとり飲みをしない女の私でも、ふらっと入ってしまう不思議な引力があった。清掃の行き届いた広い店内に、客は私ひとりだけ。運ばれてくる料理は華美はなくとも、一品ごとに風流があり繊細さが感じられた。しかし酒においてはすべてが異様に濃く、重々しい飲み心地があった。一時間ほど飲んでいた。店の様子は変わらない。私以外、他の客は一組も入ってこなかった。 壁に貼られたお品書きを眺め、料理を追加でいくつか頼も
ぼくの頭のなかで咲いた 架空の桜が満開なので ぼくは架空の友達を呼んで 昼間からお酒を飲みまくって ふたりで大盛り上がり 架空の花びらが散るたびに ぼくらの時間も過ぎ去っていって 明日仕事行きたくねえなあ ぼくがぼんやりつぶやいて 架空のきみは無言で首肯して お酒がなくなってきて ぼくは架空ストアに行ってきて てきとうに架空ビール 架空チューハイなどを買ってきて 桜の木のもとに戻ってきて くだらない架空話をして きみの架空顔はうっすらかすんでいて 明日仕事行
入場口で立ち尽くす ぽっかり抜け落ちたこころの隙間から 都合のいい理由だけをじいっと見つめて さびれ果てた遊園地に想いを馳せる ちんまりとした静寂 誰もがゆとりある日々を求めていた この落ちぶれた時代の片隅で 愛だとか夢だとか語らいながら 誰もが自由で大げさな何かを求めていた 美しいもの 素晴らしいもの 価値あるもの なんかいい感じのもの そんな金太郎飴のような理想を振り返り 沈黙する飛行塔を眺めて 断絶された景色をただ嘆くだけの愚かさよ 耳をすませは聴こえてくる 壊