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あたしのソレがごめんね
一つ足りないのと、一つ多いのだったら、どっちがいい?
「あたしは一つ足りないの」
「私は一つ多いの」
同じ部屋の中で、あたし達はそれぞれの運命を選んだ。
一章 ーあたし達のことー
あたしら双子はずっと一緒だった。
小さいころから人前では全然話さない妹に変わってあたしが周囲の大人に代弁してきた。
おなか痛いんだって。この本が欲しいんだって。あなたと一緒に遊びたいんだって。
でもある日からそれはや
あたしのソレがごめんね②
二章 -私のソレと姉について-
私はコンプレックスの塊だった。
人前で話すのが苦手で、自分自身に価値があると思えなかった。
ハンデを抱えた姉は常に堂々としていて、五体満足の私がくよくよしているのはおかしなことだった。
両親は分け隔てなく私たち双子を愛してくれたし、姉も私を気遣ってくれた。
誰にも悩みを打ち明けられなかった。敵なんていないのに、誰も味方だと思えなかった。
人の顔を見るのが怖くて下を
あたしのソレがごめんね③
三章 -新しい仲間-
夕希から「手術費を一緒に稼いで」と言われた時、喜びよりも申し訳なさの方が大きかった。
夕希にとってソレが苦痛の種であることを夕希はあたしに見せないようにしていた。それがわかっていたからこそ、あたしだけでなんとかできたらと思っていたのに、あの引っ込み思案な夕希が自分からあたしにソレに関する話をしてくるなんて、よっぽどだと思った。
「もちろんだよ」
返事した時の顔、ちゃんと笑え
あたしのソレがごめんね④
四章 -ソレがくれた思い出-
あの日から私たちはバイトが無い日もボート屋に寄って蛾次郎くんと話した。
蛾次郎くんは大工になるのが夢で高校に行かずお師匠さんの所で修行しているのだという。
「この前のあれ、凄かったよね」
「あぁ、がっちゃんのかんながけ?」
「そうそう!ペラペラペラ~!ってさ!木がベールみたいに透けて綺麗で」「カッコよかった?」
朝美がニヤニヤして小突いてくる。図星だ。
朝美に嘘はつ
あたしのソレがごめんね⑤
第五章-カタブツとの出会い-
夕希をボート屋に先に向かわせたあたしはもう一人の日直と先生に任された雑用を終わらせなければならなかった。
「あんたと日直か……。」
そいつはため息を吐きながら銀縁の眼鏡をグイと上げた。えらく感じが悪い。
「悪かったね!あたしも妹待たせてんの。ちゃっちゃと済ませちゃお!……えーと」
「早稲田だ。早稲田直木(わせだなおき)」
大学みたいな名字に文学賞みたいな名前。さぞか
あたしのソレがごめんね⑥
第六章 -もう一つのトラウマ-
私の目の前で朝美が蛾次郎くんに飛び掛かった。
「蛾次郎あんた夕希に何したの!!!!」
「朝美やめて!蛾次郎くんは何も悪くないの!!!」
私は後ろから抱きかかえて朝美を止めた。
ソレが強く朝美に当たる。
直って。お願いだから元に戻って。
蛾次郎くんから離れた朝美はソレが見えないように私をかくまってくれた。
「で、なんで夕希が泣いてんのよ」
朝美は蛾次郎くんを睨み付
あたしのソレがごめんね⑦
第七章 -新しい道-
あたしが蛾次郎に飛びかかった日から蛾次郎はボート屋に来なくなり、夕希は今まで以上に感情を表に出さないようになった。
周りにあたししかいない時でさえ前みたいに笑ったりむくれたり呆れたりしない。
「そうなんだ」「知らなかった」「よかったね」
どんな話題にも当てはまりそうな相づちをプログラミングされたみたいに返してくる。
いまどき人工知能だってもっと人間味のある返事をすると思う。
あたしのソレがごめんね⑧
第八章 -雑音-
私が感情を捨ててから少し経った頃、朝美は驚くほど勉強をするようになった。
ボート屋のバイトが終わった後も一人で小さな映画館に行って古い映画を観て、本も沢山読むようになった。
朝美がこんなに文化的な人間だと思っていなかったので正直かなり驚いた。
それと同時に今まで何となく感じていた生きづらさが少し軽くなったのを感じた。
朝美が別の何かより私のことを優先するたび、私は生きる歓びを強
あたしのソレがごめんね⑨
第九章 -見えている星-
夕希に「うるさ」と言われた翌日、あたしは高校に入って初めての期末テストで学年一位をとった。
あたしが勉強が出来るような風貌じゃなかったからか、周囲はとても驚いていた。
特に母親はあたしのカレーにハンバーグを乗せるくらいはしゃいでいた。
知ることは面白いし、やればやるほど進められるのが楽しくて仕方なかった。
初めての感覚だった。
この体で、頭で、どこまでもいけると思った
あたしのソレがごめんね⑩
第十章 ーパンドラの升ー
私が「うるさ」と言った翌日、朝美は高校に入って初めての期末テストで学年一位をとった。
私はさして驚かなかった。
朝美はもともと出来る子だとよくわかっていたから。
私が感情を閉ざして後退していく中、朝美はどんどん新しい世界の扉を開けていく。
私たち双子はまるで陰と陽だ。ボールが空に高く弾んでいけば影が小さく薄くなるように、朝美が自己実現するほど私は自分が何者なのかわから
あたしのソレがごめんね⑪
第十一章 -告白-
「蛾次郎くん。私、家族以外に誰にも言ってない秘密があるの」
私はそう言うと閉店している貸しボート屋に蛾次郎くんを連れ込んだ。
薄暗い小屋の中を夕焼けが頼りなく照らす。
「朝美の腕、無いと思うんだけど、右の」
「お、おう」
独特の緊迫感の中で向かい合う。他人が見たら愛の告白だと思うだろうか。
「実は、私についてるの」
「えっ」
これは、そんな生半可な告白じゃない。
「私が恥ず
あたしのソレがごめんね⑫
第十二章 -恋敵-
その日、夕希は別人かと見まごうほど艶っぽくなって帰ってきた。
少し紅潮した頬は夕希の顔立ちの良さを引き立てていたし、泣きはらした後のように赤みを保った瞳でさえ色気が感じられた。
実の姉であるあたしでさえ少し息を飲んでしまうような美しさだった。
それから夕希は高校でも堂々とするようになり、もうクラスで彼女の陰口を言う者は誰一人としていなかった。
いつにも増して夕希に告白する男
あたしのソレがごめんね⑬
第十三章 ー転機ー
蛾次郎くんがソレを握って泣いたあの日から私は自分のすべてを肯定できるようになった。
今まではかわいいとか美人とか言われても股間から腕が生えてる人間が美しい訳がないと聞く耳を持たなかった。でも好きな人がこの珍妙な腕を包み込んでくれて、私自身も初めてソレを受け止めることができた。
そこからの私はもう、ほとんど無敵だ。
蛾次郎くんにソレを見せた話をすると、朝美は泣いて喜んでくれた
あたしのソレがごめんね⑭
第十四章 ー帰結ー
早稲田はあまり学校に来なくなった。
『目に見えないことの方が大事』
早稲田はそう言っていたけど、あたしは目に見えない部分が不安で仕方なかった。
夕希と隠れて会って何を話しているのか。学校に来ないで何をしているのか。
学校をサボって不健全なことをするようなタイプではないし、早稲田が何をしていようとあたしには何を言う権利もないのはわかっていた。
しかし、いや、だからこそ、ただのク