あたしのソレがごめんね②
二章 -私のソレと姉について-
私はコンプレックスの塊だった。
人前で話すのが苦手で、自分自身に価値があると思えなかった。
ハンデを抱えた姉は常に堂々としていて、五体満足の私がくよくよしているのはおかしなことだった。
両親は分け隔てなく私たち双子を愛してくれたし、姉も私を気遣ってくれた。
誰にも悩みを打ち明けられなかった。敵なんていないのに、誰も味方だと思えなかった。
人の顔を見るのが怖くて下を向くと、握りこぶしと目があった。
姉についているはずの右腕だった。
私が深く悩み、苦しむほどに強く握られる拳は、いつの間にか私の腕よりもたくましく屈強に成長していた。生まれたてのころは柔らかく開いていたというてのひらも、物心ついた頃から固く閉ざされたグーの形しか見せないようになった。
「お前とも一生分かり合えないのかな」
両手でソレを握りながら何度も泣いた。
自分のものじゃないくらい熱く血管が脈打つのがわかった。
ソレを隠すためにスカートしか履かない私に対して、姉の朝美はズボンばかり履いていた。
「足は二本あんだから、分かれてないと損じゃん。足も一本になったら、そん時はあたしも晴れてスカートデビューね」
そう言って思い切り駆け出す姉の姿は眩しくて、私は憧れていた。
姉はソレが私についていることに対して申し訳なさを感じているようだったが、私は姉を憎いと感じたことはなかった。
自分たちの運命を恨んでもどうにもならないことは、姉の生き様が教えてくれた。
姉のことが大好きで、心から尊敬している。
だからこそ、私がソレをも愛して共存していく様子を見せることが出来たらどんなに良いだろうと思うようになった。
高校に入る少し前に、姉がこっぴどく怒られたことがあった。
中学時代から無断でバイトをやっていたのがバレてしまったのだ。
姉がバイトをしてでも稼ぎたかったお金は私の手術費だった。
通常、男性器を切除する手術であれば150万円かかるが、私のソレにはしっかりと骨や筋肉がついているため200万円は下らないということだった。
「あたしが夕希の手術したがってるって話、夕希には絶対しないでね」
私が部屋で聞き耳を立てているとは知らず、姉は両親にそう言った。
私はソレを取りたいと思わないようにしてきた。
ソレは私のハンデだったが、その一方で姉のコンプレックスでもあった。
姉がどんなに堂々と生きていても、私がクヨクヨしているうちは姉の心は晴れないのだと悟った。
部屋に帰ってきた姉に勇気を出して言った。
「私の股間のコレ、取りたいから朝美も一緒に手術費稼いでくれない?」
春から高校生の私たちは正式にバイト先を探し始めた。
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