夢の商品カタログ「どこかにいってしまったものたち/クラフト・エヴィング商會」(1997年の書籍)
「クラフト・エヴィング商會」をご存じだろうか。明治に創業し大正昭和と駆け抜けて珍品奇品を寄せ集めた雑貨店である。本書は商會の蔵から発見された珍品やチラシや宣伝文句を掲載して往時をしのばせるノスタルジックな商品目録である。
取り扱い商品は多種多様で、地球の重力の強弱を読み取り「蝙蝠のように天井に立つ」ことを目的とした「硝子蝙蝠」。あらゆる物質を完全に癒着させる「瞬間永遠接着液」。心ウキウキの自家製サイダー「流星シラップソーダ」等、童心を掻き立てるラインナップになっている。
当時としては革新的すぎる道具や現代まで残ってほしかった夢のある発明が紙面狭しと並べられ、趣のある当時の書体やポスターや宣伝文句が引用され往時に思いをはせることができる。
時にはスマホを置いてノスタルジックな「どこかにいってしまったものたち」に想いを馳せてみませんか。
2018年12月 ハードカバー版で購入。
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よく来たな。お望月さんです。
今日は志の高い嘘つきのための書籍「どこかへいってしまったものたち」について語る。
当然ながら、本書に記載された内容は全て「うそ」である。
「クラフト・エヴィング商會」という商社も「硝子蝙蝠」も存在しない。
しかし、クラフト・エヴィング商會は存在するし硝子蝙蝠も存在する。
なぜか。それは本書に十分な実在感をもって登場しているからだ。
「真剣に信じ込んで書かれたWikipediaは現実と区別がつかない」
――オスカー・ワイルド
巻末のネタばらし(なくてもよかったと思う)によると、当時の活字を拾い「脅迫状を作るように」ハンドメイドで練り上げられた本物の怪文書が本書で登場するカタログやチラシ類である。「なぜこんなとこを」「頼まれてもいないのに」「なんで?」という数多の疑問が沸き起こるが、あまりにも品質の高い「非実在雑貨」のラインナップを眺めると、なんだか楽しくなってくる。
ラインナップの説明文も気が利いていて「全記憶再生装置」は頭出しができないから30年分の記憶の再生に30年かかるし、「アストロ燈」は隠されたものに闇を当てるという懐中電灯の真逆の風刺的なコンセプトだったりして、クスクスと笑みがこぼれてしまう。
「この世に存在するものは誰かが作ったものだ」という概念は、路傍のお地蔵さんやアスファルトの白線からも途方もない世界の広さを感じることができる。
それが窮屈だと思う人もいるだろう。ならば、まだ存在しない「非実在概念」を作り上げて、遠くまで駆けていこう。発想力は夢幻であり、我々は世間にとって無価値なことに価値を見出すことができる。
非実在存在について真剣に考えることができる、ということは大変素晴らしいことで、人生に深みを与える「アート」であろう。ぜひ、傍らに置いて本棚で自慢とかをしてほしい。
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類書としては、別役実「道具づくし」もお見逃しなく。
「うどんげ:うどんに生える毛である」等の極限まで鍛えた嘘つきの突拍子もない方便を堪能できる。