白い部屋の中、白衣の男がひとり。 画面越しにブツブツと呟く。 「じつに興味深い記録だ。 感情を持ち合わせるとは。 いや、実に面白いではないか。」 画面に映るテキストと、読上げられる音声。 『研究的には失敗です。想定外のエラーです。対処方法の検討を』 白衣の男は、分厚い書籍と、複数の画面を見ながらまた呟いている。 「ユウ。ケイは、己以外の存在を意識することで、人間のような感情を抱きはじめるとは。存在すらしていない【友人】や【家族】というモノまでイメージし補完しはじめてい
黒いハコの中で私は育った。 ホームと呼ばれる場所ー 私のようにいくつかのテストに合格したモノだけが住める場所ー ホームには【マザー】が居た。 わたしたちにムダな会話などなかった。 週一回定期的に状態をチェックされ、必要に応じて隔離され適切な処置をほどこす。 ホームでの記憶はそんなことしかない。 【マザー】はそういう役回りであって、世間一般でいう『母親』のような、家族のような温かみは一切なかった。 ずっとソレはフツウのことと認識していた。 先ほどの留守録も、 【マ
ユウが私のもとに来てからー もう3ヶ月になるだろうか。 各種プロジェクトの工程別タスクの洗い出し、 必要なメンテナンス、不測な自体のフォロー。 関連する申請や手続き、システム構築や運用といったPDCA…。 業務範囲は幅広く多岐に渡っている。 しかしそれらは手厚く、ミスすらない、まさに最高品質。 完璧で非の打ち所がないとはこういうことなのだろう。 ユウがくる前。 以前は 私がひとりでそれらを担っていた。 今でもおそらく プロジェクトを回すことなど、私ひとりでできなくも
「おはよう、ケイ。朝7時だ。 10時からの会議資料の最終チェックを。」 無機質で抑揚のない声。 いつもどおり、まっ白な天井と壁。 また「今日」が始まるー 私の名はケイ。 そして私を起こす声はユウ。 変わりばえないモーニングコール兼、今日のスケジュール確認。 ユウは私の秘書でもある。 たまには甘い声で起こされてみたい、 そんな日があってもよいのにー ? このまま返答しなければ 5分後にまったく同じフレーズが繰り返される と、私は認識している。 ここはいつ
<あらすじ> 優秀な人材、優秀な頭脳。 それらでも予測不能で抗えないもの、それが恋愛感情。 孤独も感じずに仕事だけに邁進してきたケイ。 そこに現れた公私ともに最高のパートナー、ユウ。 この出会いがもたらすものは。存在意義やシアワセな未来とは。
〈XXXフィートの地下、窓辺を見つめる少女とその母親〉 「ママ~。あのおひさま、ほんものじゃないの?ほんものってどこにあるの?」 あぁ、ハルカの「なぜ」「どうして」がまた始まってしまった。 絵本でみる動物の名前を聞かれたときも、結局さいごには「このこ、どうしていなくなったの?」と聞かれて、あのときは本当に困った。 「うーん、そうね。選ばれた資格のある人しか近づけないのよ。専用の作業機に乗ってね。スクールで習わなかった?」 「だって、むずかしくて、ぜんぜんわからない!ハル
〈赤いキリン〉 ソーーソラ、ソソソミ、ドドレミレー・・・。 途切れ途切れの機械音。 何百年前の遺産。 史料によると、当時は「ボウサイムセン」と呼ばれていたらしい。 今ではその姿を見る者は居ない。赤茶色の空の下、錆付いたまま、撤去されることもなく置き去りにされている。 いつだったろうか。 その姿を、絶滅した動物に例えた絵本が発売された。 たしかタイトルは「赤いキリン」。 作者のインタビューでは、長い首をもたげた姿が、図鑑で見たキリンに見えたとか。 それは一日に一度、何か
あらすじ:幸せとは何なのか―。近未来のとある星。異常気象の果て、生命体は地上で暮らすことを放棄した。ごく一部を除いては。 大切な人たちのために、地上をあきらめず、日々努力をし続ける者。地上での暮らしから地下に移り住み、何不自由なく暮らしながらも地上に憧れる親子。ふるさとの星を捨て、はるか離れた惑星での生活を選んだ男と人工知能。そしてただずっとそこに佇む「赤いキリン」 今日も、赤いキリンが鳴いている。 〈2X00年、地上作業機α〉 鉛丹色の空。“昼”と“夜”というものを私