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赤いキリン ~あらすじ~第1話

あらすじ:

幸せとは何なのか―。近未来のとある星。異常気象の果て、生命体は地上で暮らすことを放棄した。ごく一部を除いては。
大切な人たちのために、地上をあきらめず、日々努力をし続ける者。地上での暮らしから地下に移り住み、何不自由なく暮らしながらも地上に憧れる親子。ふるさとの星を捨て、はるか離れた惑星での生活を選んだ男と人工知能。そしてただずっとそこに佇む「赤いキリン」

今日も、赤いキリンが鳴いている。

〈2X00年、地上作業機α〉

鉛丹色の空。“昼”と“夜”というものを私は体感したことがない。そういう概念も史料の知識で把握しているだけだ。まして「空が青い」なんていうのは、本当にあった過去なのだろうかと信じられずにいる。 
そんなことを考えながら次の作業に取り掛かろうとした矢先、今日も【あの音】がした。 

「・・・今日のところはここまでにしよう。」 
抑揚のない、Sの声だ。
おそらく私より年配で男性であること。仕事を共にして数年は経っているというのに、Sについてはこの声から予測できることしか分からない。おそらく向こうにとってもその程度だろう。それとも私の経歴程度なら書類でデータとして把握しているのだろうか。

「日没」や「日が傾く」という景色があったのは数百年前のことになる。この圏内、いや、この星の表面温度に生物が耐えられなくなってからというもの、主たる生命体は地下での暮らしを営んでいる。そう、ただ“一部”を除いては。

次いで、作業機βから通信が入った。
「今日のところは、と言われますが、この作業はいつになったら完了するのですか。草ひとつ生えない、もうそれがこの時代の常識ですよね?この砂地に、照りつける地表に、すぐ蒸発してしまう開発剤をあてどなく散布し、種をまき散らす・・・。毎日毎日それを繰り返したところで、半日いや一時間もたたず、種は消滅していく。なんの意味があるのですか、この任務に!」 

作業機βと、私の運転する作業機α、そして司令塔であるS。私たちこそが、この星の地上をあきらめきれずにいる“一部”そのものである。 

「希望は、あきらめない者にだけ訪れる幸運だ。」
Sのこのセリフは何回目だろうか。
「明日は、今日とは違う結果が出るかもしれない。今あきらめるということは、明日の結果にはつながらないということだ。根薬も種を異なる組み合わせで試してみよう。一分、いいや、数秒でも長く・・・根づくことさえすれば、発芽まで繋ぐことができるかもしれない。」

抑揚のないSの声がまくしたてた。私やβが意見する間を与えたくないのであろう。βがどう思ったかはわからないが、薬の開発者ですらこの地上にはもう訪れることはない。毎日Sが送っている数値や日報にすら返信がないことも、私は知っている。しかしその一方で、今よりも地表温度が一℃でも上昇してしまえば、私たちの家族を含め、地下の生命体の暮らしが脅かされる可能性があることも理解している。おそらくそのことはβもわかっている。そうでなければとっくに虚無感で圧し潰されているはずだ。

私たちの存在そのものが希望であるのだ。地下の暮らしの基盤は、私たちが守っている。そうでも思わなければ気が狂いそうだ。

明日。文字通りの“あかるい日”は、訪れるのだろうか。

#創作大賞2024 #漫画原作部門
#SF  #近未来 #温暖化 #スキしてみて

第2話
https://note.com/preview/n0bc7a7cccef5?prev_access_key=d850a72f28e02911ff29645a0e758f40

第3話
https://note.com/preview/neec2e10c4cad?prev_access_key=67824aebff7d09eef84abff33fc47698

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