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赤いキリン 第2話
〈XXXフィートの地下、窓辺を見つめる少女とその母親〉
「ママ~。あのおひさま、ほんものじゃないの?ほんものってどこにあるの?」
あぁ、ハルカの「なぜ」「どうして」がまた始まってしまった。
絵本でみる動物の名前を聞かれたときも、結局さいごには「このこ、どうしていなくなったの?」と聞かれて、あのときは本当に困った。
「うーん、そうね。選ばれた資格のある人しか近づけないのよ。専用の作業機に乗ってね。スクールで習わなかった?」
「だって、むずかしくて、ぜんぜんわからない!ハルカね、ほんもののおひさまが見たいの!」
それは人類共通の望みよ、と話したところでハルカには伝わらないだろう。
「そうね・・・。ママも同じ気もちよ。」
気休めの返事だったかしら。
地下でライフラインを維持し、何とか庶民も暮らせるようになるまでに数十年を要している。そんなこともハルカに理解させるにはまだ難しい。大人でもなかなか割り切れはしないのだから。この地下の暮らしが近代史では「人類の功績」とされていても。
「これ以上を望むのは、贅沢なのかしら。」
「ママ、なぁに?なんていったの?」
「ううん、なんでもないのよ。おなかへったでしょ?ハルカの好きなゴハンを作ろうか」
〈数光年先、とある惑星に着陸した男〉
真っ先に降り立ったのはγだった。最新型の人口知能をもつγは、気温、湿度、気圧、水分量、毒素の有無や風向き、酸素濃度、緑化パーセンテージなどを瞬時に分析する機能を搭載している。必要な機能であるかは不明だが「本日のひとことメッセージ」まである。
「~報告は以上になりマス。ところでマスター。このホシは、フルサトに近い感じがしマスか?」
疑問形を発音できているのに、ところどころ発音がおかしい。やはり廉価バージョン、高スペックタイプには劣っているのだろうか。それでも最低限の機能は積んだはずだし、困るほどではないが。
「ふるさと、ね。」
私の“ふるさと”。それは一体どこを指すのだろうか。生命が根絶した、時が止まった、一面赤茶色の景色のことか?それとも、イミテーションの“太陽”もどきを憧憬する、地下XXXフィートの暗がりか?
「どうかな。私は“ふるさと”にあたる景色の記憶を持ち合わせていない。ふるさと、というようなものに対する、懐かしいというような気持ちも同じく。」
ただ、人類の未来への明確な思いはある。
いつ起こるか起こらないかも分からない、可能性のカケラというものを夢想し、水に替わるという固まりをまき散らすだけの、絶対神か科学の力だかを一心に信じるなんていうのは、無意味で現実逃避にしか過ぎない。
また、奇跡を他者に委ね、それが起きてくれるまでは自分たちは守られて当然とでもいうように、日々を安穏と過ごし、ぬるま湯につかり、見てみぬふりをする。それらはもっと馬鹿げている。未来はそのような者たちに平等であるはずがない。
この新たな地に降り立つには、なんだってしてきた。権利は自分で掴み取るものだ。ただ待つなんて愚かとしか言いようがない。
いつだって力のあるもの、そう私たち数名のような者だけが、別の星で未来を切り拓くという特権を手にしたのだ。現実を直視し、どのように対応すべきかを綿密に分析予測できる能力。人脈、財力、そして行動力。それらをすべてもっていた結果が特権階級なのだ。選ばれし人間だけが、今ここに居る。生き残るに相応しい人間だけが。
「マスター、さびしいく、ナイですか?」
唐突に正面のγが、こちらを振り返って発した。
さびしい?私が?
「どこで記憶したワードだ、それは。」
「フルサト、でスキャンすると、郷愁というワードがアリました。郷愁を調べていくと、“サビシイ”というワードが・・・」
さびしい?この私が?
「γ、聞きたいことは、ひとりでさびしいか、ということか?」
「まだよくワカリマセン。ですが、もしマスターが“サビシイ”ならば、ハグする、いいですよ。」
笑わせてくれる。無機質なハード素材の、温度もない人口知能が、ハグとは。
「お気遣いをどうも、とでも言えばいいか?しかし、それは私には無用な情報だ。私は寂しさなど―。」
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第3話
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