小説【CYCLE】1話(仮題)
「おはよう、ケイ。朝7時だ。
10時からの会議資料の最終チェックを。」
無機質で抑揚のない声。
いつもどおり、まっ白な天井と壁。
また「今日」が始まるー
私の名はケイ。
そして私を起こす声はユウ。
変わりばえないモーニングコール兼、今日のスケジュール確認。
ユウは私の秘書でもある。
たまには甘い声で起こされてみたい、
そんな日があってもよいのにー
?
このまま返答しなければ
5分後にまったく同じフレーズが繰り返される
と、私は認識している。
ここはいつもどおり。
素直に起きよう。
また『今日』が始まる。
「おはよう、ユウ。
資料の最終チェックね、ありがとう」
「ありがとう?
御礼なんて、はじめてでは」
フツウの恋人同士なら
おそらく談笑するような場面
こんなときでも無機質な声。
この声に癒やされてしまう私
大概ドウカシテイル。
?
「今日のニューストピック、為替や株価変動は?」
「はい、ケイ。
大手FCの☓☓が合併して企業名変更。
それに伴い為替と株価は…」
ユウは「優」の名の通り、優秀極まりない。ニュースを流すよりも、まとめ記事を読むよりも、私に必要な情報を必要な量だけ、必要なタイミングで与えてくれる。
「マザーより10件ですー。
『ケイ、いつから連絡していないと思うの?たまにはホームへ…』」
唐突にた録音メッセージが割り込んだ。
容量が溢れたらしく、ユウの声を遮りエラー音とともに流れ出した。
「止めて!!」
朝から声を荒げてしまう。
聞きたくない声に、聞きたくない話だ。
「…キャパオーバーよ。
大事な用件が入らなくなるから
適切なデリートを」
「仰せのままに、ケイ。」
?
ユウはいつも冷静で
私の挙動につられることはない。
いまや大抵のことはユウが何とかしてくれる。
私にしかできないことなんて、
もう無いのかもしれない。
最終確認欄にチェックを入れることだけなのではないだろうかー。
(続く)