赤いキリン 第3話
〈赤いキリン〉
ソーーソラ、ソソソミ、ドドレミレー・・・。
途切れ途切れの機械音。
何百年前の遺産。
史料によると、当時は「ボウサイムセン」と呼ばれていたらしい。
今ではその姿を見る者は居ない。赤茶色の空の下、錆付いたまま、撤去されることもなく置き去りにされている。
いつだったろうか。
その姿を、絶滅した動物に例えた絵本が発売された。
たしかタイトルは「赤いキリン」。
作者のインタビューでは、長い首をもたげた姿が、図鑑で見たキリンに見えたとか。
それは一日に一度、何かの周波をひろうのか、突如として前触れなく音を出す。
メロディとはもう呼べない、途切れた機械音。それが哀愁を誘うとかで、絵本では「赤いキリンが鳴いている」と表現された。
けして子ども向けといえないその本は、懐古主義の大人たちによって教科書にも掲載されたらしい。
不定期に出すその音には曲名があり「夕焼け小焼け」というそうだ。
これまた懐古主義たちが好きそうな設定ではないか。数百年前の文献によると、そのメロディが流れると帰宅の合図であったらしい。
「赤いキリンが鳴いた。今日の散布作業はここまでとしよう。」
Sはあの絵本を読んだのか。それとも、いまが【夕方】とでもいうのか?
「ママ、また、あの音がするよ。」
「不思議ね。ここに暮らしている中ではハルカみたいな小さな子にしか聞こえてこないのだから。本当に不思議。」
(ふるさと・・・。そうだ、あの赤いキリンは、この星では鳴くことはないのだ。)
「なにかイイましたか、マスター。」
「いや、気にしないでくれ。取り止めのないことだ。」
「トリトメ?」
「ひとりごと、というやつだ。」
「ヒトリ・・・サビシイ・・・」
「γ、その思考から離れてくれないか。さびしいというワードは、私の辞書には必要がない。」
「マスターには、ワタシいます。ハグ、できますよ。」
赤いキリンが、今日も鳴く。