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当事者が語るうつのサイン1

『サインを見逃さないようにしましょう』

初任者の時代から幾度と無く耳にした言葉だ。
生徒の表情,仕草,服装の乱れ・汚れ,授業中の様子…
何か良くないことが起きている生徒は必ずサインを出す,それをすぐに察知して声を掛けられるようになろう,という意識が,教員には必須である。
この意識は,もしかしたら職場の仲間を救うことになるかもしれないというお話しを,私の実体験をもとにシリーズでお届けする。

机の乱れ

うつを発症するまでの私は,自他共に認める几帳面な性格だった。
本棚の本はサイズ別,斜めに傾いていることなどあり得ず,配布資料も取捨選択を行い,すぐ使うものはクリアファイルに入れて携帯,使い終わったらフラットファイルに入れて参考資料として保管というルーティンが,就職する前から出来上がっていた。
仲良くしてくれている方の中には,常に引き出しが開いており,机の上に資料が山積みになっている後輩X(男性)がいるのだが,いつも彼とは,「先輩って本当に机綺麗ですよね」『いやいや,少し片付けようよ』というやり取りをし,周辺の方々がそこにツッコミを入れるのが定番となっていた。
当時の私はそのやり取りも楽しく,特にストレスも感じること無く毎日を過ごすことが出来ていた。
そして,片付けることが苦手な人々のことを,疑問視していた。

この認識が変わったのは,自分が担任になり,仲の良かったスタッフと異なる年次に配属された後からだ。
勿論,現在の職場に所属する前にも担任をしていたことはあるし,過去の所属校では必ず卒業生を出した。
しかし過去にも綴ったように,休職前に最後に所属した年次でストレスを抱え過ぎてうつを発症した私は,その場にいた時の自分の机の様子に自分で嫌気がさしていたのだ。

当然こなさなければならないことは副担任の時よりも増える。それはどの学校にいても当たり前のことだった。
問題はそこではなく,仕事を共にする際,一緒にいて辛い人の割合の方が高かったことだ。
無駄に高圧的な物言いをされたり,名前を呼んでも返事をされなかったり,提案を悉く覆され,折衷案を提案すれば不機嫌になられたり。
こんなことが毎日のように起こる内に,気が付けば私の机は自分でも信じられないほど散らかっていた。

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心が乱れると周辺環境も乱れ始めるから,制服が汚れていたり,教室の机の周りに物が溢れている生徒にはすぐ何かあったか聞いた方が良いと教わったことがある。
正にその時の私のことを言われているかのようだった。

ある時,仲良くしてくれている別の後輩Y(男性)が諸用で私を訪ねて来た。
彼は常に明るく,ちょっとした笑いを交えながら場を和ませてくれる人物で,個人的にとても好きだった。
そんな彼が伝えたい用件を済ませた後,私のところでいつものように小ネタを披露してくれた。
それまでの私なら,吹き出しながらツッコミを入れ,互いに笑いながらその場を終えていたのだが,この時は全く笑うことが出来なかった。
さすがの彼も雰囲気を察してしまったのか,「あれっ…今そういう雰囲気じゃないんですね?すみません…」と本気で謝ってしまった。彼は何も悪い事をしていないのに。

放課後,X,Y,αが私のもとへやって来た。

彼らはいつもの調子で「警察だ!」と冗談交じりに私のもとへ近付いてくる。
私もすぐさま呼応し,『やめろよーふざけんなよー令状持ってんのかよー』とプライバシー保護のため変えられた音声の声真似で応戦する。

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ここだけ見ればうつとは無縁な団体に見えただろう。
しかし彼らは私の机を見て愕然としていた。

「先輩どうしたんですか!?去年からは考えられないですよ!もしかして他の人の机借りてるんですか?」

彼らにとっても,その状況はショックだったようだ。
この出来事をきっかけに,「片付けようと思えないほど心が疲れている状態」が存在するということを実感したのだった。
そして同時に,これまで出会って来た「机が驚くほど片付いていない教員」に対する認識が大きく変わった。
彼らは片付けが苦手なのではない。片付けようと思えるような心の余裕が持てないほど追い詰められていたのだ。

振り返ってみれば,過去に所属した学校で心に不調をきたす出来事に見舞われていたり,誰が見ても明らかな上司からのパワハラに苦しめられていたり,家庭内で悩みがあったりと,机が散らかっている人は必ず何かしらの苦しみを抱えていた。
その実情をしっかり理解せず,無意識にその人達の姿勢を疑問視していた自分がとても恥ずかしくなった。

もしかしたらあなたの周囲にも,机の周辺が乱れに乱れている同僚や家族がいるかも知れない。
その時にはどうか,「片付けなさいよ」と頭ごなしに指摘するのではなく,『何かあった?』と声を掛ける優しさを持って接して欲しい。

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たかしを
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