【読書メモ】『精霊の守り人』(著:上橋菜穂子)
確か初見は10年以上前に街の書店にて。事前知識を持たずに手に取り、一気に読んでしまったのを覚えています。ジャンルは新潮文庫では珍しいファンタジー、「日本(和風)」を強く意識させてくれる匂いを感じた一冊でした。元は別レーベルから出ていた児童文学で、アニメ化、実写化もされているのでご存じの方も多いかと思います。
根底にイメージされるのは、日本古来のシャーマニズムと「神道」が定着し始めた頃の古代日本、といったところでしょうか、本編は10巻、外伝が3巻との中々のボリュームのシリーズですが、まずはシリーズ1作目の本作を手にとり、肌に合うようでしたら一気に行けるかと。
世界観としては、左右を川に挟まれての北を基点とした都の広がりや、それを治める「帝(みかど)」や「天道」という渡来人の概念。アイヌや土蜘蛛、だいだら法師を喚起させる「精霊」や「呪術師」という土着人の概念。
200年の中での文化の交わりと収斂、そして伝承として混ざっていく土着人と渡来人の知恵と知識。著者の上橋さんは文化人類学者だそうですが、なるほど、と納得してしまう形で構築されています。
古事記や日本書紀、大国主命に代表される出雲の逸話や、高天原辺りへの造詣が深いとより楽しめるのかな。児童文学だけあって語り口は柔らかですし話の展開も定番ではありますが、ググッと惹きこまれます。
シリーズを通して、「~守り人」とのタイトルがつく物語の主人公は「バルサ」、「~旅人」のタイトルの主人公は「チャグム」となるようです。本作は『精霊の守り人』ですので、今回の出会いでチャグムの用心棒となる「バルサ」に焦点があたっているかと。
なお、ありがちなキラキラ系の万能型・容姿端麗な主人公といった設定ではなく、生活感を感じさせる中年の女性(凄腕の戦士ですが)とのことで、、児童文学から始まっていることを考えると、なかなかレアな始まり方かと。
さて1作目となる本作は、自分を見失っている一人の女性(バルサ)と自分を失いつつある一人の子供(チャグム)の出会いから始まります。それぞれが「自分」を取り戻す為に戦い、一先ずの結末を迎えますが、あくまで序章に過ぎないといった終わり方で。
この先、物語の中では7-8年ほどが経過していく形になりますが、それぞれの成長をも楽しみに読み進めていったのも思い出しました。この先の物語の、そして世界の拡がりが、渇きを覚えるほどに楽しみで仕方ない、そんな一冊です。