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【小説】せめてウサギは逆しまに

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「せめてウサギは逆しまに」あらすじ

「せめてウサギは逆しまに」あらすじ

――神が作った世界が完璧ならば、人が必死に生きる度に世界は歪んでいくのだろう。
薬によって脳の七割が壊れ、記憶と危機感を失った少女「甲斐戸羽遊沙」。ギャングに追われる彼女は、日銭を稼ぐために怪しい仕事のスカウトを受ける事にした。『この町のクリップ屋さん』と呼ばれる実態の分からない店と、黒づくめの怪しい店主フクロウ。彼から頼まれた依頼は、大企業へ書類を届ける事だった。簡単な仕事だと気楽に構える遊沙だ

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【エピローグ】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

【エピローグ】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

エピローグ「私のクリップ屋さん」最初の仕事から二週間が経った。関係者にとっては大きな事件であり、この世界にとってもまた大きな変化の兆しであった。
しかし、この町にとっては、毎日起きている小競り合いの一つでしかない。ディアスの生死は不明のまま、聖都は変わらず歪んだまま。
平穏無事にこの街は存在する。

「ねー、ネコ聞いて~!」

夜も更け始めた頃。二段ベッドの下の段に寝転がったまま、遊沙は上で眠るネ

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【17話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

【17話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

崩れた瓦礫は、全てを押し潰す暴力の残響か。
感情の機微も人々の想いも、介在を許されぬ。
圧倒的で絶対的で、生物の生存など許さない人為の敗北。
神の鉄槌とでも表現したくなる無情の光景であった。

「やったか?」
「それを確認しろって言ってんだよ、バカ」

目も当てられぬ惨状に生まれた人影は、瑪瑙を中心としたリングの面々だった。彼らは倒壊した団地跡に散り、何かを探し始める。
左腕を失った健次達が探して

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【16話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

【16話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

空には星。
宙には風。
地に伏せるのは、死に瀕した二人。
短き高速の中、交換した攻撃は幾重にも。
思い浮かべた戦略は幾条にも。

しかし、伝わる思いは無きに等しい。
目の前の誰かを放っておけず、見知らぬ誰かなど考えなかった悪。
見知らぬ誰かの幸福を願い、目の前の誰かを屠り続けてきた正義。
矛盾せずとも背反もせぬ、交わる事のない相克の螺旋。
一つの脳は見知らぬ誰かも祝福されていることを知り、自壊を選

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【15話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

【15話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

「いい加減、離れてよ!」
「そのリュックをこっちに寄越せば離れるさ!あと、フクロウ達の射角から出たらな」
「この!今更、正義っぽくないセリフ、吐かないでよ!」

団地から団地への跳躍の最中。遊沙はぴったりと着いてくるディアスに罵声を吐いた。このままでは、ディアスと共に向かいの団地の屋上に着地することとなるだろう。

遊沙の足は限界近く、スラムに逃げ込んだところで逃走は困難である。そもそも遊沙がスラ

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【14話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

【14話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

「ネコさん!もう弾丸ありません!」
「分かってるって!敵にばれるから、大声出すな」
「す、すいません」

大森は年若い娘に小突かれて、しょげてしまう。ネコはそんな大森の様子を見て、『人生の最後に一緒に居るのが、こんなおっさんかよ』と溜息を吐いた。

ネコは一流ではないが、一応はプロの運び屋。生き汚さを駆使して、2人は上級街中核の入り口近くまで移動してきていた。
しかし誤魔化しも限界。結局商業ビルに

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【13話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

【13話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

闇夜に聳える黒い壁。視界の先にそれが写った瞬間、喜びに近い感情が沸いた。
いつもは気分が沈むのに、緊急事態において反転するのは皮肉なものだ。

「ラスト!頑張って、相棒」

銃弾飛び交う異常を走り抜け、二回までと言われた全力疾走は既に五回を数えた。
体のどこに力を入れても十分に伝わらず、筋肉のどこを調べても伸び切ってしまっている。それでも端切れの様な自分を繋ぎ合わせ、生の形へと継ぎ接ぎしていく。

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【12話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

【12話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

「…………も、もう大丈夫だよ、ネコ」

ネコの胸に口を押し付け、声を殺して泣いていた。
時間にすれば大した長さではなかったが、人生としては大きな刻だった。
しかし、いつまでも腑抜けてはいられない。
曇っていた視界は晴れ、心は軽く。ならば、後は走り抜けるだけだ。

「お、復活したか?」
「うん!頑張ってくる」

遊沙は泣き腫らした目のまま鼻水を啜る。
そして通信機を使い、どこかに連絡をした。

「ネ

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【11話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

【11話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

「ああ!もう!どれだけ数居るんだ!」

上級街外殻の一角。横転した車を盾にして、少女と男が身を潜めていた。
彼女達の周りのビル影には無数の人影。人影から単発的に行われる射撃は少女達を殺すための攻撃ではなく、二人をその場に釘付けにする意図を感じさせるものだった。

「おっさん!なんで着いてくるなんて、言ったんだよ!」
「ひい!ごめんなさい」
「アンタみたいな足手纏いが居なければ、とっくに仕事終えてた

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【10話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

【10話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

「フクロウ、荷物はこれぐらいでいいでしょう?」
「はい。ウサギさんが来てくれましたから、軽量なもので十分です。急ぎましょう」

ワニガメとフクロウは、纏めた荷物を背中に背負い、出発しようとする。
しかし、今度は遊沙が動こうとしない。

「?どうしました、ウサギさん」
「お願いがある!」
「何ですか?」
「……興奮剤が欲しいの。結構大量の」
「興奮剤?普段から使っているんですか?」

興奮剤とは、心

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【9話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

【9話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

第三章『戦場中』フクロウと金髪で長身の女性ワニガメが、運搬用のフローターに荷物を載せていく。

「急いでください!ネコさんは、それほど持ちません」
「いい信頼ね、フクロウ」
「茶化さないで下さい、ワニガメさん。とにかく積み込み急いで」
「分かってるわ」

ここはクリップ屋さんの入っているアパートの屋上。フクロウ達は、ディアスの言っていた作戦の真っ最中である。
しかし作戦は難航中。ウサギの代役のネコ

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【8話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

【8話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

「嫌な雨。何の臭いもしない」

雨は足音を消す。
雨は臭いを消す。
雨は襲われる獣の集中力を乱す。
雨降る夜は、狩人が繰り出すには都合がいいのだ。
弱い遊沙は、そんな狩猟日和に悠長に寝ていられない。

今までだって。
これからだって。

「よう、久しぶりだな。ウサ」

唯一空いている道から、ふいに一人の男が入ってきた。
雨に紛れて近付いてきた危険の名は、設楽瑪瑙。金髪で長身。革のジャンパーを着て、

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【7話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

【7話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

世間の隅っこの貧民街。社会の忘却に沈められる貧困場。
その中でも、ソコは酷い場所だった。四方を高い壁に覆われた四畳程の臭気の吹き溜まり。一方向だけは僅かに隙間が有るが、人一人が通れるかどうかという細さだ。

見上げれば、四角く切り取られた空。地面では食べ終わったコンビニ弁当がごみの山を作っている。他に目に付くモノといえば、棚として使っている壊れた冷蔵庫が備え付けられているくらい。

「……」

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【6話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

【6話】せめてウサギは逆しまに【ディストピアSF小説】

スラムの片隅に、遊沙の行きつけのコンビニが建っている。小さなバラック小屋がひしめき合うこの地域では珍しく、ある程度大きな建物である。
といっても、他よりよい物件という訳ではない。他の人が住処を建てたがらない堤防の上に建っているから、土地を広めに確保できているだけだ。

店内では棚の代わりに壊れた脚立が並べられ、種類豊富な商品が陳列されている。といっても、商品はどこかから拾ってきたようなガラクタばか

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