見出し画像

【AI時代の“勝ち続ける”ビジネスモデル】『ダブルハーベスト』の読みどころ紹介!

スタートアップ経営や新規事業創出、共創のヒントにつながる書籍を紹介する企画。

今回取り上げるのは、堀田創氏と尾原和啓氏の共著『ダブルハーベスト 勝ち続ける仕組みをつくるAI時代の戦略デザイン』です。

コモディティ化したAI技術。AI活用の「戦略デザイン」が問われる時代へ

DX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進があらゆる業界で進められていますが、その鍵を握るポイントのひとつに挙げられるのがAI活用です。

AIの技術自体は日々進歩し続け、専門的な知識がなくてもAIを活用できるサービスも普及しつつあります。しかし、実際にAIを企業の戦略に組み込む方法に関しては、まだそこまで浸透していないのが現状ではないでしょうか?

本書の冒頭でも述べられているように、AIはもはやコモディティ化し、「技術」ではなく「戦略デザイン」が問われる時代に突入しています。

・AIを取り入れることで、御社の持続的な競争優位性を高められるか?
・AI実装によって何重にも利益を生み出すループを描けているか?
・御社のAI活用は勝ち続ける仕組みをデザインできているか?


ー『はじめに 「技術」から「戦略デザイン」へ』より

これらの問いに応える新しい戦略モデルを提示し、「勝ち続ける仕組み」を実現するためのフレームワークを紹介しているのが、本書『ダブルハーベスト』なのです。

「ハーベスト(Harvest)」は、「収穫」を意味する言葉。ダブルハーベストとは、“ AIを組み込んだ戦略を正しくデザインし、自走する仕組み(ループ構造)を作ることで、1回収穫して終わりではなく、二重、三重に実り(利益)を収穫し続けること ” を指します。このループ構造を本書では「ハーベストループ」と呼んでいます。さらに、最初に作ったループ構造とは異なるもう一つのループ構造を作ることで競争優位性を強固なものにすることを「ダブルハーベストループ」と称しています。この「ダブルハーベストループ」こそが、「勝ち続ける仕組み」の真髄になります。

『アフターデジタル』の著者と、AI実装のフューチャリストによる強力タッグ!

著者の一人である尾原氏は、京都大学大学院で人工知能を研究したのち、マッキンゼーで戦略コンサルタントとして活躍。AIと戦略の双方を学んだ経験から、“ いかにしてAIを企業戦略に結びつけるか ” をテーマに、グーグル・ジャパンでGoogle Assistantの国内立ち上げや、産業技術総合研究所の人工知能研究センターにアドバイザーとして携わってきました。

同氏がビービットの藤原保文氏と上梓した『アフターデジタル—オフラインのない時代に生き残る』は言わずもがな、シリーズ累計15万部を超えるベストセラーになっています。

その後、尾原氏は “ AI/DXの時代に、企業の持続的な競争優位性を高めるためには、何が必要なのか−−? ” という新たな問いの答えを模索します。その時に出会ったのが、共著者の堀田氏だと言います。

堀田氏は慶應義塾大学大学院でニューラルネットワークなどの人工知能を研究する傍ら、ネイキッドテクノロジーを創業し、その後mixiに売却。国内最注目のAIスタートアップであるシナモンAIを共同で立ち上げ、現在は同社のフューチャリストとして活躍する人物です。

“ 最先端のAI技術への深い造詣 ” だけでなく、AIをビジネスへ実装するときに欠かせない “「構造化する力」においても、すばらしい卓越性をお持ちなのです ” と尾原氏が評するように、二人で繰り広げられた膨大なディスカッションを経て、ダブルハーベストを現実のビジネスに組み込む方法を「構造化」しているのが本書の大きな特長と言えるでしょう。

人間とAIが相互に寄与し続ける「ヒューマン・イン・ザ・ループ」の世界

ここからは、本書で特に面白かったポイントをいくつか紹介します。

本編ではダブルハーベストの本題に入る前の前提として、AIにまつわる誤解を解き、その本質的な価値と活用方法について誌面を割いて説明しています。

AIの議論でありがちなのが、” AIが人間の仕事を代替するから、人間はやがていらなくなる ” というもの。もちろん、これは「幻想」であり、“「人間 VS. AI」という対立構図でAIをとらえるのは、もはや時代遅れ ” と著者は一蹴します。

今は人間とAIのコラボレーションに価値を見出す時代、すなわち「ヒューマン・イン・ザ・ループ」と呼ばれるAIモデルに注目が集まっています。

例えば、ベーシックなパターンで言うと、手書きの書類をOCRで読み込んでテキストデータを抽出するAIを実装する際は、はじめにAIが学習するための画像データ(教師データ)を人間が用意し、それをディープラーニングでAIがある程度学習してから、実際の業務に投入します。

しかし、手描きだと汚い文字やかすれた文字などもあるため、最初からAIが100%正しく認識できるわけではありません。そこで、AIの認識の信頼度をあらかじめスコア化し、一定の点数以上のものは人間の目を通さずOKとし、点数以下のものだけ人間が実際にチェックして間違いがあれば修正を行う。そうすることで、人間の手間が省けてアウトプットのミスも減らすことができるのです。

さらに、人間が修正したデータをAIに「追学習」させると、AIの認識精度はどんどん高まります。

“ 一連のサイクルはAIの学習プロセスに人間が不可欠なことを意味している ” と著者が述べるように、AIで足りない部分は人間が補いながら、人間とAIの生産性や精度を高め続けることが、まさに「ヒューマン・イン・ザ・ループ」の考え方なのです。

このAIモデルには派生型として、弁護士や医師、エンジニアなどの専門家が関わることでより高度なAIのループ構造を構築する「エキスパート・イン・ザ・ループ」、エンドユーザーの行動やサービスへのフィードバックをAIに学習させる「ユーザー・イン・ザ・ループ」といった、さまざまなバリエーションもあります。

ここで重要なのは、“ 精度100%のAIは存在しない ” という認識を持つこと。たとえ現時点で目標の3割程度しか効果が得られなくても、学習によって更なる効果が見込まれるのであり、“ 上司から「精度が低いAIなんて意味がある?」と聞かれたときに、明確に「あります」と答えられるようになるには、このヒューマン・イン・ザ・ループの概念を押さえておく必要があるだろう ” と著者は述べています。

Googleに学ぶ、他社にはない唯一無二の価値を提供し続ける方法

本書ではすでに世の中に多数あるAIのユースケースを分解したうえで、AIを活用することで実現できる価値を下記5つに分類しています。

①売上増大
②コスト削減
③リスク/損失予測
④UX向上
⑤R&D加速

それぞれの詳細については本書を読んでいただきたいのですが、著者はこれらの価値をAIでただ実現するだけでは他社にも簡単にマネされてしまう可能性があるため、“ AIを戦略デザインに組み込んで競争優位に変換する必要がある ” ことを説きます。

本書では、他社にはない唯一無二の価値を提供することを「ユニーク・バリュープ・ロボジション(UVP)」と呼び、Googleを例にあげて紹介しています。

Googleは検索市場で1位の座を獲得したことで、検索連動広告によるマネタイズに成功しています。他社がGoogleと同レベルの検索エンジンを作ることは可能かもしれませんが、すでにデータ量もアルゴリズムもGoogleが圧倒しており、世界中のあらゆるウェブサイトがGoogle検索向けに最適化されているため、1位の座をひっくり返すのはもはや不可能と言えます。

“ 時間が経てば経つほどUVPが大きくなるような仕組みを築くこと ” がポイントであり、それを実現するのがハーベストループなのです。

圧倒的な優位性をキープし続ける「ダブルハーベストループ」とは?

では、勝ち続けるハーベストループを作るにはどうすればいいのか?

著者は “ まず、UVPを1回つくること ” 、すなわち1回目の勝利を目指す「シングルライン」の構築が重要だと言います。シングルラインを作る方法は「広告市場の独占」や「コストリーダーシップ戦略」、「マーケット内の最高のUX」、「マイクロプロダクト化」などさまざまなアプローチがあります。

本書では各「勝ちパターン」のポイントを詳しく解説しており、それだけでも事業開発のヒントになりそうですが、これらはあくまでも「1回勝つ方法」。“ 1回限りの勝利ではなく、勝ち続けること、さらにいうなら、ループ構造を回し続けて戦わずして勝ち続けることこそが本当の狙いだ ” と言います。

そのハーベストループを直感的に理解できる事例として、弁護士向け契約書レビューツールを提供するイギリスの「ローギークス(LawGeex)」を取り上げています。

同社はエキスパート・イン・ザ・ループ型でAIが弁護士のレビュー業務をサポートすることで、「コスト削減」という価値を提供しています。その結果として、顧客は「安くて早いサービス」を実現し、「UX向上」という競争優位性を獲得しました。これがいわゆる、シングルラインです。

さらに、ローギークスには契約書などのドキュメントデータが弁護士のさまざまなフィードバック付きで蓄積されていきます。これを教師データとしてAIに学習させることで、AIはどんどん賢くなり、比例して精度や効率も高まった結果、さらなるUX向上につながります。このループ構造を回し続けることで、いずれ競合を寄せ付けないレベルのサービスに到達するでしょう。

このように、データを育てて収穫するというサイクルを止めない限り、ハーベストループはずっと回り続け、AIが賢くなること自体が次の駆動力となり、持続的な競争優位を築くことができる。“ これがハーベストループの威力なのだ ” と著者は述べます。

でも、ローギークスの本当の凄さはここからです。最初のハーベストループが機能したことで、弁護士をはじめとするエキスパートはより自分の能力を発揮できる仕事に集中できるようになり、ローギークスは " ムダな作業が少なくて働きやすい会社 ” としてのブランディングに成功し、優秀な人材が集まるようになります。優秀な弁護士からの質の高いフィードバックが溜まれば溜まるほど、当然ながらAIのクオリティや精度も向上し続けます。ここには、「採用ループ」というもう一つのハーベストループが生まれているのです。

この2つのハーベストループが循環する構造を「ダブルハーベストループ」と呼び、競合を圧倒し続ける強力な競争優位性の源泉となります。

ハーベストループを何重にも重ねていけば、設計図もそれだけ複雑になる。そういう複雑な仕組みは、外からはなかなか窺い知れないものだ。ダブルハーベストループの狙いはまさにそれで、より複雑で、より模倣されにくいループ構造を気づくことで、優位性を揺るぎないものにすることを目指している。 

ー『Chapter5 多重ループを回して圧勝する』より

5G時代の到来で、ハーベストループはさらなる高みへ

本書の後半では、ダブルハーベストループの設計図を実装するための具体的かつ詳細な手順を解説しています。この部分は実際に本書を手に取ってじっくりと読んでいただきたいと思いますが、最後にAIがもたらす未来の展望を述べていますので、少しだけ紹介したいと思います。

まずAI活用の根本に大きなゲームチェンジをもたらす可能性があるのが、5Gの浸透です。5Gでほぼ遅延なしのリアルタイム通信が実現すると、ありとあらゆる膨大なデータを常時サーバーに送信できるようになります。その結果、“ 二重、三重どころか、何重ものハーベストループが高速で回り続ける ” ことに。

著者は、“ 現状をはるかに凌駕するスピードでAIの学習が進行し、あらゆる領域で最適化が進む未来にはどんな風景が広がっているのか−−。少し想像しただけでもワクワクが止まらない ” と大きな期待を寄せています。

もう一つの大きな変革が、人間の働き方の変化です。煩わしい作業のすべてをAIが代替すれば、人間は専門領域に自身の力をフル活用できるようになります。著者は “ フルタイムで働くのが当たり前とされた世界観すらもガラリと変わる可能性が出てくる ” と述べ、“ 好きな時間に働くフリーランスの専門家が大量に発生するかもしれない ” と予測します。近年、HRテックが注目を集めているのは、この分野がAIによってますます洗練されていき、大きな変革期に入りつつあるからなのです。

「勝ち続けるビジネスモデル」を模索するすべての人におすすめ!

本書を読んで感じたのは、「AIはもはや未来や理想の世界の話ではなく、その果実を着実に“ 収穫 ”し続けるフェーズに入った」ということ。「AIを導入するのか?しないのか?」という議論、あるいは「AIは使えるのか?使えないのか?」という議論は終わりを告げ、ただ単純に使うだけでなくビジネス戦略に組み込む企業が勝利し始めているのです。

自社のDXに関わる方はもちろん、HRテックに取り組む人事、事業責任者やプロダクトマネージャー、そして“勝ち続ける”ビジネスモデルの創造を目指すスタートアップ企業の経営者にも、手に取っていただきたい一冊だと思いました。

今回のレビューでは紹介しきれなかった具体的なハーベストループの作り方や、AI時代に欠かせないキーワードに焦点を当てたコラムも読み応えがありますので、気になる方はぜひ読んでみてください!

東芝テックでもAIを取り入れた事業展開や新規事業創出を推進すべく、スタートアップ企業への出資を行なっております。ご興味のある方は是非、下記公式ホームページよりお気軽にお問い合わせください!


この記事が参加している募集