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勘所を磨き曖昧な思考をクリアにする!『解像度を上げる』読みどころ紹介

解像度が高い人たちに共通する思考・行動パターンを体系化

皆さんは仕事で課題を設定したり、仮説・提案をする時に、説得力や具体性が足りないと感じることはありませんか?それはもしかすると、「解像度」がまだ低い状態なのかもしれません。

今回紹介する『解像度を上げる 曖昧な思考を明晰にする「深さ・広さ・構造・時間」の4視点と行動法』は、ビジネスにおける「解像度」を高めるための具体的な手法やアプローチを解説した本です。本書によると、ビジネスの世界では「物事への理解度や、物事を表現するときの精細さ、思考の明晰さ」を示す文脈で解像度という言葉が用いられるようで、例えば提案や説明をしている時に「それってどういう意味?」「説得力がない」「それって何の価値があるの?」と言われる。「多くの事例に当てはまるようなよく聞く話」をしている。提案が「安易な解決策」になっている。そもそも最初に「何から始めれば良いのかが分からない」といったケースが当てはまる場合、解像度を上げる余地があると言えるそうです。

著者の馬田隆明氏は、FoundXのディレクターとして数多くの起業家を支援してきました。その経験から、優秀だと感じる起業家に共通する傾向として「解像度が高い」人が多いということに気付いたそうです。自分たちが取り組んでいる領域を明確かつ簡潔に答えられる、一人の顧客像が浮かんでくるレベルで顧客のことを説明できるなど、「ビジネスで要求される多くの面で高い解像度」を持ち、しかも「高い解像度に辿り着くのが早い」。そういった人たちの思考・行動パターンを体系化し、具体的なアクションにつながる“型”に落とし込んだのが本書になります。

「解像度が高い」を要素分解し、最初に取り組むべきことを解説

そもそも、解像度が高い状態とはどういう状態を指すのか?本書では解像度という言葉の概念から紐解いて説明しています。

例えば、「健康になりたい」という漠然した要望を持つ人にアドバイスするケースでは、ヒアリングを重ねることでその人にとっての「健康になりたい」とは「筋肉を付けたい」ということであると導き出し、さらに「上腕二頭筋と上腕三頭筋を鍛えたい」ということが分かると、「そのためにはこの筋トレ」「休息を2日間ちゃんと取る」「最初はこのトレーニングから始めて、1か月後には発展的なトレーニングを試してみる」といった具体的なアドバイスができることを解説。このように相手の課題に対して「時間軸を考慮に入れながら、深く、広く、構造的に捉えて、その課題に最も効果的な解決策を提供できていること」を、解像度が高い状態であると述べています。

そして、著者は優れた起業家の解像度の高さが何で構成されているのかを考えた結果、「深さ」「広さ」「構造」「時間」という4つの視点で整理できることが分かったそうです。先ほどの「筋肉を付けたい」という人へのアドバイスを例に当てはめると、筋肉の大まかな位置や種類、それぞれの特徴まで把握することが「深さ」であり、筋トレを提案するだけでなく食事や休息の取り方、トレーニングギアの選定なども含めてアドバイスすることが「広さ」に当たります。さらに、「深さ」「広さ」の視点で見えてきた要素の関係性や重要性を把握することが「構造」で、時間的な変化やプロセスを考えながらメニューを提案することが「時間」に該当すると言います。

これら4つの視点を整理しておくことで、誰かに「解像度を上げよう」と伝える時にも、どの視点に注目すべきかを整理して伝えられるため、「より具体的な行動につながるアドバイスができるようになる」とのこと。本書では一つ一つの視点を掘り下げて解説しているので、もっと詳しく知りたい方はぜひチェックしてみてください。

さらに、著者はこれらの視点をバランスよく組み合わせることが、解像度を上げるために重要だと説きます。例えば、「広さの視点」を十分に持っていたとしても、「構造」や「時間」の分析を行わなければ、どの部分を深めていくのかという判断ができません。そして、ホワイトカラーの職に就く人たちにありがちな傾向として「際限なく調査や分析ばかりしてしまい、現場に行かないために深さを十分に確保できず、解像度を一定以上に上げられない」といったケースを挙げながら、多くの場合に不足しているのは「深さ」であることから、まずは「深さ」に注力することをおすすめしています。この深さとは、インターネットでは手に入らないような希少性の高い情報まで掘り下げて考えることであり、さらに、そこで手に入れた深い情報を人に共有したり議論するなど「思考だけではなく、行動を重視する」ことが大切だと述べています。

解像度を上げる基本姿勢は、情報と思考が粗い状態でも「行動する」こと

では、解像度を上げるためには、何をすればいいのでしょうか。本書ではその具体的な方法を紹介する前に、解像度を上げるための基本的な姿勢を解説しています。

著者は多くの情報と優れた思考能力を持っているにもかかわらず高い解像度にたどり着けない人たちに共通する課題として「行動が足りていない」ことを挙げます。そして、解像度を上げるためには「情報」「思考」「行動」を組み合わせながら、それぞれの質・量を高めていくことが必要であり、情報や思考が粗い状態であっても、「まず行動する」ことでそのサイクルが回り始めるのだと述べています。

また、ゼロベースから起業の良いアイデアにたどり着くまでには、基礎がある人や優秀な人でも1年、ほとんどの人が約2年かかっており、多くの人がたどり着く前に諦めてしまう姿を見てきたことから、「頭の良さや優秀さ以上に、粘り強さが必要」であるとともに、単に時間をかけるというだけではなく「情報」を集め、「思考」を重ね、「行動」し続けることが基本姿勢だと述べています。
さらに行動量を上げるために手当たり次第なんでもやるのではなく、本書で紹介しているような「型を意識する」ことも大切だと言います。

なお、ビジネスにおいては顧客の課題を解決することで、価値(「製品やサービスから、顧客が得られるメリットや満足感」)を生み出すことが求められるため、業界の解像度や事業計画の解像度を上げることも重要だけれども、まず、顧客の「課題」とそれに応じた「解決策」の解像度を上げることに焦点を当てて「情報」「思考」「行動」のサイクルを回すべきだと著者は述べています。

その上で、先ほど触れた「深さ」「広さ」「構造」「時間」の4つの視点から「課題」と「解決策」の解像度を上げるための48の型(方法論)を解説しています。2章で自身の解像度を診断する方法を紹介しているので、今の自分に足りていない視点の型から読み進めることもできますし、本書がおすすめする「課題」の「深さ」を上げる型から順番に読み進めることもできます。
また、本書の最後に付録として「解像度を上げる型一覧」があるので、改めてどこに書いてあったのかを読み返したい時や、解像度診断で自分に足りない視点を学びたい時に役立ちます。

「良い課題」を設定することが、大きな価値の創出につながる

本書では、解像度を上げることと共に、課題設定の重要性についても触れています。
例えば、平均的なランチ代が1,000円程度の場合、「お昼ご飯を一緒に食べてくれる人を探したい」という課題に対して様々な解決策を考えたとしても、支払われる料金は「1回あたり300円程度」しか取れないのではないか?と言います。つまり、たとえターゲットの期待を上回る課題解決を実現したとしても「課題の大きさ以上の価値は生まれない」ため、「良い課題を選べるかどうかで生み出される価値がほぼ決まる」と述べています。

また、課題設定においては、与えられた範囲内で課題解決を行う若手社員や学生のような立場の場合、課題の質よりも質の高い解決策を求められることが多く、経営層に近づくほど「どんな課題を設定するのか」が求められるようになることを解説。マネージャーとして人をまとめたり、裁量の大きな仕事をする際は、それが「課題の質を高める」仕事なのか、「解決策の質を高める」仕事なのかを考えることが重要だと言います。

そして、起業家であれば課題を選択する自由度はより高まるものの、スタートアップは大企業と違って資金や人材が限られているため、「少ない資源で解決可能な大きな課題を見つけて、自らの手で解決する」という難題と向き合う必要があることについても言及しています。このように、職業や立場によって選択できる課題の幅は違いますが、いずれにせよ選択した課題によって生み出される価値が変わることを覚えておくべきだと述べます。

その上で著者が考える「良い課題の3条件」を紹介しているので、こちらもぜひ参考にしてみてください。

起業家や新規事業に取り組む人にとって、多くの示唆と勇気が得られる

このように本書では課題設定の考え方から解像度の上げ方に関する詳細な48の型(方法)が解説されているほか、一度上げた解像度が実際に正しいのかを検証する方法についても解説されています。さらに、最終章ではすでに存在する課題だけでなく、目指したい未来像についての解像度の上げ方が論じられています。起業家や新規事業に取り組む人にとって、多くの示唆や勇気が得られる内容となっておりますので、興味のある方はぜひお読みください。

本書が提供する知識や考え方は、新しいビジネスを構築する上で役立つことはもちろん、日々の業務に追われる中でも成果を上げる方法を知りたい方や、仕事の生産性を上げたい方にとっても重要です。冒頭から読み進むことで、解像度の概念を改めて学ぶことができますし、章ごとにテーマが明確に提示されており、そのテーマに基づいた具体的な方法やアクションを学ぶことができます。

解像度を高めることは、ビジネスの成果や効率性を向上させるために不可欠です。ビジネスにおける解像度を高め、新たな価値の創出や自身の成長につなげたいすべての人におすすめの一冊です。