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書評 谷川俊太郎詩集 イラストエッセイ 「読まずに死ねない本」 033 20241121

 詩人の谷川俊太郎さんが亡くなられました。
 天才だと思います。
 とても易しい言葉で、深く美しく語ることができる。
 若い頃は何を語るかが大切だったけれど、歳をとるとどのように語るかの大切さが分かるようになりました。

 谷川俊太郎さんのお父さんは、谷川徹三という哲学者で、法政大学の総長だった方です。でも谷川さんはいわゆる教養には無関心で、学校もサボりがち。プラモデルを組み立てるように言葉を組み立てて詩を作るのが好きだったそうです。本もあまり読まなかった。
 お父さんはそういう谷川さんを叱るでもなく、大学に行かないと言った時も、反対はしなかった。
 ただ、谷川さんがずっと書いていた詩のノートを見て、息子の才能を確信してほめてくれたのだそうです。そして詩人の三好達治氏に紹介され、そこからデビューしました。

 谷川さんの詩は、いわゆる碩学的じゃないですよね。古今東西の詩人へのオマージュもない。難しい語彙をたくさん使う訳でもない。本当に子どもが積み木で遊ぶように、言葉で遊ぶのが好きなんだなって感じです。それがとても素晴らしい。

 谷川さんの原点に、詩をお父さんにほめられたのがとても嬉しかったという経験があるそうです。自分が書いたものでみんなが喜んでいるのを見るのが嬉しい。
 なんか、分かるなあ。

 ぼくは30年間高校の先生をしていました。
 高校にはクラス対抗の合唱コンクールみたいなのがあって、生徒たちが練習している声が校舎に響き渡る時期があるのですけれど、「おっ、いい歌詞だな」って思うのはたいてい谷川俊太郎さんの作詞でした。
 「二十億光年の孤独」とか「いま生きているということ」とか「死んだ男の残したものは」とかね。

 人類はちいさな
 球の上で
 二十億光年の孤独に
 ぼくはおもわず
 くしゃみを
 した
 
 そんな歌声が教室から聞こえて来れば、はっとなりますよね。笑

 ぼくは教え子を在学中に癌で失くしているのですけれど、「いま生きているということ」なんか、涙なくしては聞かれませんでした。

 さて、今日は最後に谷川さんの素敵な詩を一つご紹介します。
 きっと著作権の問題があるから全部はご紹介できませんけど、抜粋で。
 学校の先生だった時には、こんな詩が好きだなんて絶対に言えなかった。笑
 でも、人間は誰でもこんな風に思う時期があるんじゃないかな。


なんでもおまんこ   谷川俊太郎

なんでもおまんこなんだよ
あっちに見えてるうぶ毛の生えた丘だってそうだよ
やれたらやりてえんだよ
おれ空に背がとどくほどでっかくなれねえかな
すっぱだかの巨人だよ
でもそうなったら空とやっちゃうかもしれねえな
空だって色っぽいよお
晴れてたって曇ってたってぞくぞくするぜ
空なんか抱いたらおれすぐいっちゃうよ
どうにかしてくれよ

中略

どうしてくれるんだよよお
おれのからだ
おれの気持ち
溶けてなくなっちゃいそうだよ
おれ地面掘るよ
土の匂いだよ
水もじゅくじゅく湧いてくるよ
おれに土かけてくれよお
草も葉っぱも虫もいっしょくたによお
でもこれじゃまるで死んだみたいだなあ
笑っちゃうよ
おれ死にてえのかな


イラスト 谷川俊太郎さんの肖像


 

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