今週の書評欄 20241028週
今週分の、日経、読売などの5大紙の書評欄から。
●チッソは私であった
日経の半歩遅れの読書術に記載されていた書評。
熱がこもっていて、すばらしかった。
水俣病よって父を亡くし、自らも発症した著者が、概念上の主体でしかない、行政や企業、国家に対して憤り、闘いながら、自分と向き合うことになる。著者は概念上の主体=システムに対し、届かない声をあげつづけて発狂しながら自らを振り返る。
記事を読んでみることをおすすめする。
●優しい地獄
毎日新聞に寄稿していたヒコロヒーの書評がすばらしすぎた。30代半ばを迎えてこれまでの自分の生き方と向き合っている心の状態と本書を読んだ体験がシンクロしたうつくしい書評だと思った。てか、こんな知性的な人だったのか!
社会主義政権のなかで生き、すべてを腹をくくって受け入れる著者の人生と歴史の重さを感じながら、丁寧に評する。きれいな文章。
日本は安全安心で、公共への貢献や歴史の重みに対する感覚を得る機会があまりないように感じる。彼女が、「私たちの日々こそ〜」と最後に書く問題意識は、自分も似たようなものをようやく感じるようになった。
●僕たちの保存
スマホやパソコンがクラウドとシームレスにつながった現在、「保存」に物質的なモノやスペースはいくらでも削減できるようになった。
たとえば、2010年くらいまでに生まれた子どもの家庭には、分厚い子ども時代の写真を現像して集めたアルバムが一冊はあるのではないか。
現在の家庭を知らないが、子どもの写真はスマホとクラウドのなかにしかないという家庭も多いのではないだろうか。
おそらく情報やモノの保存方法と記憶や体験に対する感性は、デジタル化で大きな変化があったはずだ。いま現実を生きてるだけでは気づけない私たちの認知の移り変わりを体験できそうな本である。
保存で思い出したのは、レイモンドカーヴァーの「preservation」だ。アメリカの生活の日常性を壊れていく様を、そこから前を向こうとする妻と、過ぎゆく時に振り落とされる夫を描いた作品だった。人間の生活形式や歴史には、記憶の保存と密接に関わっている。
●ニューノマド
今世紀は、LCCとスマホの発達で移動の世紀とも言えるくらい人間の大移動が起きている。ゆえに、定住者とのコンフリクトが発生し、オーバーツーリズムとして問題化してきている。どこも右傾化した政党が少しずつ影響力を得ている報道も見かけるようになった。
今年の夏は異常に暑かったし、11月を迎える、近日も気温が高いだろう。秋がなくなっているような印象を受ける。気候変動が深刻化したら、さらに人間の大移動が起こるかもしれない。
そうなると、先住者との軋轢がさらに生じる可能性もある。
意外と「ニューノマド」という新しい生き方の模索が始まるのかもしれない。
●九州異世界遺産
これは良さそう。
現象から歴史を想像し、そこにあった人の営みが見えてきそうだと思った。
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