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【最終回】演奏する人と教える人、そして教わる人の話 9(まとめ3:レッスン動画などを参考のために視聴する人へ)

例のSNSの投稿に腹が立ち、感情的にならないよう一旦冷静になって翌日読み返したらやっぱりとっても腹がたったので、なんでこんなに刺激を受けるのか冷静に自分を分析し、文章を分析してこのブログに極力冷静に書いていたらあまりに長文になったので分けて書いております。
そして遂に今回最終回です!もはや誰の何の話かほとんどの皆さんが覚えてないとは思うのですが、自分自身が納得するためにも書き終えなければならなのです。

これまでの記事は以下からご覧いただけます。


レッスン動画などを参考のために視聴する人へ

超一流の演奏者が超一流の指導者であるとは言い切れない

スポーツの分野でもコーチやトレーナーと選手はそれぞれ明確な役割を持っているように、演奏者と教育者の『専門的境界線』は存在すると思っています。

ただし、音楽家の場合は演奏者がレッスンをすることが非常に多いですし、僕のようにレッスンをすることが多い人間でも人前で演奏をします。ですので、活動領域が曖昧なのが音楽業界の特徴ではありますが、だからといって、超一流の演奏家が必ずしも超一流の指導者であるとは言い切れません。

確かに、演奏者は自身の演奏経験から得た様々なノウハウ、経験に基づく作品解釈に関してはレッスン分野でもエキスパートの方が多いと思います。一方で、奏法、フィジカル面などのベーシックな部分に関しては、興味深いことに演奏者である本人が自身のフィジカル面について正直よくわかっていないとか、もしくは感覚的認識で演奏しているために第三者に対し言語化して伝えることが困難な演奏者も多いです(抽象的な表現を多用してしまうなどの問題点があります)。
他にも自己の感覚的認識と言語が乖離し、実際にはそんなことしていないのに言葉では具体的に解説しすぎて混乱を招いてしまう時もあります。

また、一流の演奏家が生徒さんの前で実演をして聴かせる行為は絶大な説得力を生む一方、それを生徒さんが再現するための根底にある解説ができるかは未知数です。
例えば、カッチョイイ演奏を聴かせて「さあ同じようにやってごらんなさい」と生徒さんに伝えたところでできるわけがありません。それでできるのであれば最初からできているわけで、そこには「できない原因」があるのです。それが根底にある音楽的基礎力や音楽的理論の知識不足です。

私は超一流の演奏家にはできないレッスンをしている自負があります

一方で僕は自分を実験台にして、何をするとどんなことが起こるかを日々研究していますし、どんな言葉を使うと生徒さんに誤解なく結果につながるかをある程度知っています。そして様々な表現の仕方で伝える引き出しの多さがあるので、小中学生から年配の方まで同じ内容で言い回しを変える術を持っています。

そして生徒さんは様々な経験値、できることできないことの差がそれぞれにあります。演奏している環境や目標、モチベーションもそれぞれで、そんな皆さんの基礎を固めるための地道な練習は、定期的に確認しながら一緒に歩むことで成就します。これは世界を周っている超一流の演奏者にはできないことです。
悩みや、わからないことがあったらすぐに聞ける、レッスンで何度も確認できる。そうした生徒さんと寄り添った近い存在でいられることも指導者としては大切な要素だと思うのです。

生徒さんのニーズ、という意味だけでなく、自分が生徒さんへ提案した方法やお伝えした知識に責任を持っているからこそ、アフターケアの重要性も把握していますし、生徒さんが近い将来上達し、次のステージに進んだ際のより深い内容のレッスンを常に想定し、準備する責任もあります。

超一流のプレイヤーが自分の技術や経験をひけらかすだけの1回限りのレッスンは起爆剤としては大変有効な存在ではありますが、実際に直接的に得られるものはほとんどないと思います。その1回の刺激で生徒さんがどれだけ先に進めるかは生徒さんに丸投げしているわけです。


疑う心を常に携えて欲しい

情報が欲しいと思ったら瞬間で手に入るのが今の時代です。
しかし、その真偽が確かなものかを見極める力がないと、間違った知識を手に入れてしまったり、場合によっては悪質な人間に騙されてしまう可能性もあります。この点はエリックさんが動画でおっしゃってました。

ですので、偶然手に入れた情報を鵜呑みにせず、疑う心を必ず持って、裏付けを手に入れるための検証を必ずすべきです。検索で上位に出たからと言って、それが信ぴょう性の高さとは無関係だと考えてください。情報は必ず根拠とセットにすることを忘れないようにしましょう。なお、疑うこと=否定することではありません。

トランペットの奏法に関して言えば、僕自身がいくつかの動画を拝見した感想としては、「それってあなたの方法ですよね?」という、どこかで聞いたような言葉が最適でした。表面的、直接的な方法ばかりで根拠や配慮、その背景や仕組みに関する解説がほとんどないのです。そうしたものが示せない(示さない)のであれば、多くの方が共通して認識・実践することはできません。

なぜなら人間の体は個体差があるからです。それを考慮せずに表面的な方法論だけを伝えたところで、その解説動画と同じことができる可能性は低いです。第三者に方法を伝えるためには、まずその原理から説明すべきだと僕は思っていて、まず「僕の場合はこうしています」というひとつの方法例を示し(結果このような演奏になる、と実演を披露するのが目的)、ではあなたがどのように自分の体を使ったら同じ方向性の演奏が生まれるか研究してみましょう、という流れをレッスンでは必ず汲んでいます。


さいごに

気がついたら9つの記事になってしまいました。
それだけ例のSNS発言に対したくさん考えさせられたわけで、そうした意味では感謝しています。

僕自身が今の知識、レベルで満足なんてできないし、もっとも自分が上達するための研究や練習を常に怠ってはいけないと改めて決意できましたし自分のこれまでやってきたことに対するプライドも再認識できました。そしてそれをツキイチレッスンや音大生に還元することが僕の使命の一つであると自覚し、これからもトランペットの研究に励もうと思います。

最後に、僕はやっぱり伊東たけしさんの演奏するT-SQUAREが好きです。

以上。


荻原明(おぎわらあきら)

荻原明(おぎわらあきら)です。記事をご覧いただきありがとうございます。 いただいたサポートは、音楽活動の資金に充てさせていただきます。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。