見出し画像

演奏する人と教える人、そして教わる人の話 5(演奏家 ≠ 指導者(教育者))

最初はSNSで無神経な発言を見て、そのことに対して自分がどう考えているのか冷静に書き出してみたのがきっかけで、こんな感じの記事を書いてみました。


誤解ないように先に言っておきますが、この一連の記事はエリックさんの発言について書いているわけではございませんのであしからず。

演奏家 ≠ 指導者(教育者)

今回のSNSの発言は、スポーツ分野で監督やコーチに対して選手に指示出しているんだったら現役選手より上手にやってみせろ、と言っているようなものです。

指導に長けた人、分析力のある人、教育の底上げをするために研究する人、物事には細分化されたそれぞれの中での専門家と、それを学ぶ人がいます。

そうした人は表舞台に出てこないので存在に気付かれにくいのですが、それぞれの専門分野が確立されているのはその人たちがいるからです。

音楽の業界でも、本番の日にコンサートホールに入ると、演奏者以外の方がたくさんいらっしゃいます。楽器などを運搬・搬入をする方、ホール全体の整備や保全管理をする方、照明などのコントロールをする方、撮影の方、守衛室などのセキュリティの方、ステージのセッティングをする方、楽譜を用意する方、出演者の身の回りのケアをする方、責任者や主催の方、お客様の対応をする方など。

そうした大勢の方がそれぞれのお仕事をしてくださることで出演者は演奏に集中できています。出演者はお客さんの前に登場し、パフォーマンスをするので確かに最も目立つ存在ですが、他のスタッフの方よりも地位が高いわけではありません。
それを理解できない演奏者というのが稀にいまして、ステージマネージャーさんに暴言を浴びせるところを目撃したことがありますが、何様のつもりだと。

結局こうしたタイプの人は、ステージで脚光を浴びてお客様にチヤホヤされ、「自分(演奏者)がこのステージを作っている、だから一番偉いんだ」と錯覚している傾向にあります。ああみっともない。

カッチョヨクナイ演奏の原因

例の投稿で、カッチョイイ吹き方のレッスンをしようかな、と発言していました。確かにそうした内容のレッスンもあります。やれフュージョンというスタイルの吹き方だの、宝島のアドリブソロだとかそういったもののカッチョイイ吹き方講座のような限定的なレッスン。確かに興味深いところはあります。

投稿者ご本人様も実際にやってみればわかりますがそうしたユニークなレッスンは評判を生むかもしれませんが、そのレッスンの成果がきちんと形になる受講生は本当に少数だと思います。
というのも、(SNS投稿者が)「カッチョイイ吹き方ができていない」と指摘されている大多数の吹いてみた動画配信者のカッチョヨクナイ演奏の原因は、フュージョンスタイルじゃないとか、そうしたことよりもずっと手前の「基礎力」にあるからです。

音楽の基礎力

例えば指がたどたどしくなってしまう最大の主な原因は音階の練習量不足です。音程感が良くない原因は、音程感などのソルフェージュ力や和音や和声の知識、そしてそれらを感じて取り込める耳。リズム感の問題はドラムやベースを耳に取り入れる力、根本的なリズム感、楽譜を読む力など。
それらのベーシックな部分を強固なものにして底上げを図った上で、順次レベルに合わせた教則本や基礎的な訓練のメニューに取り掛かる。
それらと並行して様々な音楽に触れ、感じ、知識の引き出しを増やしてモチベーションを高める。フュージョンやジャズというスタイルを自分のものにする段階はここです。
楽器のメンテナンスやコンディションに関する知識と実践。

まだまだありますが、そうした多岐にわたる地道なチャレンジが「カッチョイイ演奏」に繋がっていくんです。当たり前のことしか言ってませんが、多分投稿者ご本人はキャリアも長いですし、そうしたベーシックなところが自分の中にバッチリあることが当たり前すぎて忘れているのかもしれません。

ですから単純にカッチョイイ吹き方講座など開いたところで結果につながるわけがないのだから、仮に実践したらきっと最初に彼が口にしたくなる言葉は(さすがに口に出さないとは思うけれど)「なんでそんなこともできないの?」という最強NGワードだと思います。

基礎力を底上げするために幼少の頃から音楽教育を取り組むべき、という考えは世界中にありますが、その中でもヨーロッパにはシステム化された教育がいくつも存在します。日本でもヤマハが積極的に行っています。リトミックなどもそのひとつです。

教育に真剣に向き合っている人がいます

音楽教育はそんな単純なものではありません。優秀なプレーヤーが優秀な教育者になるとは決して言い切れないのはそのためです。例の人は馬鹿にしたような口ぶりでレッスンプロという言葉を使っていましたが、教育という分野にしっかりと向き合い、研鑽し、その立場にプライドをもっている人がいることを理解すべきです。

ただし、投稿者本人がおっしゃるように、研究もしなければ学びもなく、演奏に関しても真剣に向き合わないチャランポランな単なる受け売りの自称指導者もたくさんいます。YouTubeを見ていて「この人とんでもないこと言うな...」と言いたくなる人は正直沢山います。そうした人に警鐘を鳴らしてくれる存在としては、今回のSNSコメントは良かったな、と思いますが、でもそれ以上に、レッスンをバカにするな、と言いたいです。

まだ続きます。


荻原明(おぎわらあきら)




いいなと思ったら応援しよう!

荻原明(おぎわらあきら):トランペット
荻原明(おぎわらあきら)です。記事をご覧いただきありがとうございます。 いただいたサポートは、音楽活動の資金に充てさせていただきます。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。