としまとしお

いま面白いと思うことを書いております。 気ままに読んでください。

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マガジン

  • 雑談

    とりとめのない談話。よもやまの話。

  • 私の論語教室

    論語の魅力をお伝えします。

  • 【名著発見】安全第一ビルヂング読本

    今から100年前。日本人の誰も「近代ビルディング」なるものを見たことが無かった頃のこと。丸ビルが誕生したことで人々はパニックに陥った。「安全第一ビルヂング読本」は、この混乱を収拾するために書かれ、日本初の「近代ビルディング利用案内」となった。このマガジンでは、その全文を掲げ、解説を付し、魅力を伝える。

  • 島崎藤村「夜明け前」について

    小説「夜明け前」についての感想

  • 恋と学問

    もののあはれとは何か?本居宣長「紫文要領」から読み解く、源氏物語の魅力と本質。

最近の記事

レディオヘッド

レディオヘッドの最良の作品を12曲ほど選んで、それを最高の曲順に並べ、ベストアルバムを作ろうという話が、友人との間で持ち上がった。選曲では両者一致し、残すところ並べるだけの段となった。 先に友人が作り、記事にした。いかにも良い並べ方だと思ったので、困ってしまった。妙案は思いつきそうにない。 すっかり追い込まれた形の私は、選ばれた曲のひとつ、True love waits(トゥルー・ラブ・ウェイツ)の歌詞について、簡単な感想を述べるにとどめて、勘弁していただきたいと思う。

    • 追悼、西尾幹二 自画像を描き続けた人

      西尾幹二(1935-2024)が亡くなった。このごろ出された『日本と西欧の五〇〇年史』(2024年)のあとがきで、本書は私の遺言であると言ったが、そのとおりになった。 寂しくてならない。何が寂しいって、小林秀雄、三島由紀夫、澁澤龍彦といった、最高の日本人たちと親しく交わった、最後の人だったろうと思われるから。特に三島由紀夫との交遊は素敵だ。ゴーゴー(今で言うディスコ)に誘われて、一心不乱に踊る三島を、生理的に受け付けられないと感じた話などは。 三島は西尾の思索人生の、ほん

      • 私の論語教室 6.知る/好む/楽しむ。

        雍也第六、第十八章、「知る/好む/楽しむ」を読み解きます。 【原文】 子曰、 知之者不如好之者。 好之者不如楽之者。 【書き下し文】 子曰わく、 之を知る者は之を好む者に如かず。 之を好む者は之を楽しむ者に如かず。 【現代語訳】 孔子がある時おっしゃった。 ある対象を知ることよりも、 それを好むことの方が上等である。 ある対象を好むことよりも、 それと楽しむことの方が上等である。 ※ この章句との出会いが、私が論語の魅力に取り憑かれた、そもそものきっかけでした。孔子

        • 【名著発見】安全第一ビルヂング読本。目次

          ※これは連載記事です。過去の記事は以下をご参照ください。 目次1.玄関の巻………………………………(一) 2.昇降機の巻……………………………(五) 3.廊下の巻………………………………(一〇) 4.便所の巻………………………………(一二) 5.手洗所の巻……………………………(一七) 6.メール・シュートの巻………………(一九) 7.電灯の巻………………………………(二一) 8.暖房の巻………………………………(二二) 9.窓の巻…………………………………(二四) 10.

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        記事

          【名著発見】安全第一ビルヂング読本。序文

          はじめに今から100年前、日本で最初の近代ビルディングが誕生した。その名は丸ビル。東京駅の丸の内口を出て、正面左側にそびえたつ。 今ある丸ビルは二代目で、平成14年に竣工した。地下4階地上37階。地下1階地上9階の初代丸ビルがチンケに思えるが、よく目を凝らして〈幻視〉してほしい。大正12年当時、丸ビルの登場まで、日本人は近代ビルディングという概念すら知らなかったのだ。それを知った衝撃と比べれば、背の高さなど問題にならない。 日本人にとって、丸ビルは、「はじめてづくし」であ

          【名著発見】安全第一ビルヂング読本。序文

          私の論語教室 5.孔子、愛を語る。

          里仁第四、第三章、「孔子、愛を語る」を読み解きます。 【原文】 子曰、 惟仁者能好人、 能惡人。 【書き下し文】 子曰わく、 惟(た)だ仁者のみ能(よ)く人を好み、 能く人を悪(にく)む。 【現代語訳】 孔子がある時おっしゃった。 人をよく愛し、 人をよく憎むことは、 仁者にしか出来ない。 ※ 今回の孔子は、柄にもなく(?)愛を語ります。言っていることは、分かるような分からないような。こういう時の読解の心得は、分かることにしないことです。そこを出発点にしなければ、い

          私の論語教室 5.孔子、愛を語る。

          私の論語教室  4.まあ天だね。

          憲問第十四、第三十七章、「まあ天だね」を読み解きます。 【原文】 子曰、 莫我知也夫。 子貢曰、 何為其莫知子也。 子曰、 不怨天、 不尤人、 下学而上達。 知我者其天乎。 【書き下し文】 子曰わく、 我を知ること莫(な)きかな。 子貢曰わく、 何為れぞ其れ子を知ること莫からんや。 子曰わく、 天を怨みず、 人を尤(とが)めず、 下学して上達す。 我を知る者は其れ天か。 【現代語訳】 孔子がある時おっしゃった。 私を知る者はいないものだなあ。 弟子の子貢が言った。 どう

          私の論語教室  4.まあ天だね。

          私の論語教室 3.近く思う。

          子張第十九、第六章、「近く思う」を読み解きます。 【原文】 子夏曰、 博學而篤志、 切問而近思、 仁在其中矣。 【書き下し文】 子夏が曰わく、 博く学びて篤く志し、 切に問いて近く思う、 仁其の中に在り。 【現代語訳】 子夏がある時言った。 博く学び、強い意志を持ち、 切実な疑問を抱いて、近く思うこと。 仁は、その中に孕まれている。 弟子の言葉この言葉を読み解くにあたり、まず注意したいのは、これは弟子の子夏という人の言葉であって、孔子の言葉ではないということです。

          私の論語教室 3.近く思う。

          ビートルズ名曲図鑑 1.In My Life

          「ビートルズが好きだ」と公言することには、ためらいがつきまとう。これほど好かれているミュージシャンは古今東西いないわけで、それはあたかも、日本人が「私は白飯が好きなんだ」と宣言するのに近い。「お前に言われなくてもみんな好きだよ」というわけだ。 しかし、白飯が好きだという人間にも様々あって、なかには「俺はなぜ白飯が好きなのか」と、白飯の底知れぬ魅力について哲学的な思考をめぐらす人がいるように、私がビートルズを愛好する理由も、それなりに深い次元に達していると思っている。ここはひ

          ビートルズ名曲図鑑 1.In My Life

          私の論語教室 2.有教無類。

          衛霊公第十五、第三十八章、「有教無類」を読み解きます。 【原文】 子曰、 有教無類。 【書き下し文】 子曰わく、 教え有りて類無し、と。 【現代語訳】 ある時、孔子がおっしゃった。 人間には教育による差が有るだけだ。 人間の種類による差はない。 ずいぶんと短い言葉ですが、ともあれ教育をめぐるお話ということなので、教育の「教」の字の成り立ちから、考えてみましょう。 左側の「孝」の字は、上半分が「老人」を表し、下半分は「子ども」を表します。旧世代と新世代の交わりを表すの

          私の論語教室 2.有教無類。

          父と私、その1

          今年の3月18日は、珍しく墓に行った。毎年行ってはいるが、命日であるこの日に行くことはあまりなかった。もう8年になる。 行く途中、運転中なのに涙がこみ上げてきたのには困った。思えばあの日も、車内で涙が止まらなくて参ったものだった。父のことを思って流す涙は、不意に車内で起こることが多い。運転に集中しないとならないからかも知れない。他のことを考える余裕がなくて、襲う悲しみの逃がし先がないからだ。 8年前の3月17日、父の友人である医師から知らせを受けた。ゴルフ場で倒れたらしい

          父と私、その1

          映画「オッペンハイマー」について。(ミネルバの梟は黄昏に飛び立つ)

          昨夜はすることがなかった。ふと友人が、現在公開中の映画「オッペンハイマー」を勧めていたのを思い出して、亀有の映画館へ車を走らせる。上映開始は20時45分だった。 今どき流行らない3時間の大作で、観終わって車に乗り込んだ頃には日付が代わっていた。私は退屈しなかった。クリトファー・ノーラン監督の作品を他に見たことがないので早計かも知れないが、きっとこの人は音の響かせ方に秀でた映画監督だと思う。 友人が的確にして充分な感想を書いているので(リンク)、作品について私が付け加えるべ

          映画「オッペンハイマー」について。(ミネルバの梟は黄昏に飛び立つ)

          孤児・寡婦・異邦人

          人は誰しも決定的な影響を受けた人がいる。私の場合、20世紀フランスの哲学者エマニュエル・レヴィナス(1907-1996)が、それにあたる。 影響を受けた範囲が広すぎて、その全容は語ろうにも語れない。それはあたかも、恋する人の好きな所を言い表せないことに似ている。どんなに言葉を尽くしたとしても、あの人の魅力を語り漏らしている気がして、上手い具合にまとまらないのだ。 このような対象について語るには、ほんの一言の解釈に留めておくのが妥当である。今日は、次の印象的なフレーズについ

          孤児・寡婦・異邦人

          私の論語教室 1.文なるかな。

          八佾第三、第十四章、「文なるかな」を読み解きます。 【原文】 子曰、 周監於二代、 郁郁乎文哉、 吾従周矣。 【書き下し文】 子いわく、 周は二代に監(み)て、 郁郁乎(いくいくこ)として文なるかな、 吾は周に従わん、と。 【現代語訳】 ある時孔子が言った、 周は先行する二代の王朝を参考にして、 華やかな文化を築き上げた、 私は周に従うよ、と。 孔子の言葉は、世間話をするかのような口ぶりで、さらりと無限の含蓄を伝えます。よく耳を澄まさないと、重大なことを聞き逃す。その

          私の論語教室 1.文なるかな。

          私の論語教室 総論、孔子について。

          今日の話は、この先、繰り返し立ち戻るであろう大事な話です。お聞き漏らしのないよう、切にお願い申し上げます。 実際に孔子の言葉に触れる前に持っておくべき、いくつかの前提知識について話します。古代と現代の隔たりは、私たちが想像するより大きいからです。この隔たりを無視して、「同じ人間だから」は通用しません。なかには、「前回序章で述べていたことと違うじゃないか。素直に読むのだったら前提知識など持たずに読もうではないか」という意見もあるかもしれません。 その考えは間違いです。前提知

          私の論語教室 総論、孔子について。

          私の論語教室 序章、堀川をたずねて。

          ささいな風景についての印象から始めます。 2023年の大晦日は、ひとりで京都で過ごしました。母校同志社大学の構内にある教会で、無性に祈りたくなったからです。寒空の下、固く閉ざされた母校の門に立ち尽くし、ふと思い付いた私の足は、江戸時代の儒学者伊藤仁斎が300年ほど前に開いた、堀川の塾に向かって歩き始めていました。 大学から歩いて30分とかからない、ずっと気になっていた学舎は、思ったよりだいぶ小さく、ここで行われた学問の大きさとの不釣り合いについて、その場でしばらく考え込ん

          私の論語教室 序章、堀川をたずねて。