その20『メイのバカ!もう…』〜知らんけどを知る〜
おとんもおかんも大阪人、
こてこての大阪人の中尾です。
かれこれ40年間も関西弁を話せば『プロ』を自称しても良いんじゃないかと思っています。
最近、巷で『知らんがな』がクローズアップされているみたいなので、僕なりに掘り下げてみようと思います。
息子たちが『知らんがな』を乱発するのも気になっていたし、正しい場面で正しく使っているかも少し疑問だったので。
今回、ノープランで書くので、結末がどうなるか知らんけど。
『知らん』活用について上の画像をご覧遊ばせ。
一つずつ書いてみよかな。
知らん
「本当に知らない」の意味で使うことがメインになりますが、「もう!知らないんだから!(知ってるけど)」のようにツンデレ的なニュアンスを醸し出したいときは「知らん!」となります。
ですので、となりのトトロのサツキのセリフに『メイのバカ!もう知らない!』というのがあるのですが、この場合の『知らない!』は完全にこの『知らん!』に置き換わります。
これの関西弁ver.は『メイのアホ!もう知らん!』になります。
「知らん」だけだと冷たく突き放すニュアンスが強くなります。さすがに冷たすぎるので語尾に「なぁ」とか「わぁ」「ねぇ」「のぉ」を付けて印象を和らげます。
語尾で和らげない上級者は、本当に知らない様子で「知っら〜ん…」と言います。
激レアですが、たまに見かけます。
目上の人には「知らんすねぇ」がありますが、こんな危険な橋を渡る必要はないです。素直に「わかりません」でいいです。「わからんす」って言う人もいますけど。
知らんわ
「私も知らない」という意味だけで使うことはないと思います。単に「知らんわ」だと冷たい印象です。「私も知らない」というのは相手がいて、その相手と同じ状況ですよ〜ということですね。その意味で使うなら、少し優しい印象を与えたいので「知らんわ〜」と語尾を伸ばします。
そして、僕だけかもなのですが「知らんわ〜」と「知らんわー」も使い分けています。
発音的には「〜」の方は「わぁああ」って広がる感じ、「ー」の方は「わーー」ってそのまま伸ばす感じです。
意味的には「〜」の方がどちらかというと感情的、「ー」の方は無機質な、ちょっと興味も薄い印象を与えたい時に使います。
「知らんわ!」は「知るわけ無いやろ!」のニュアンスが強く、かなり突き放す表現になります。
知らんし
この「〜し」は関西弁の中でもかなりディープな表現で関西弁の中でも大阪南部の泉州地方でよく耳にします。
「〇〇(名詞)やし」は「〇〇だもん」とかそういうニュアンスです。
アタックNo.1の主題歌で涙が出ちゃうのは何故でしたか?「あかん!涙が出てまう!女の子やし!」と、こうなるわけです。ちなみにそのアニメは1969年放送開始だそうです。僕はまだ生まれていません。
「〇〇(動詞)し!」は「〇〇しないと思ってたでしょ。だけど〇〇するぞ(だからほっとけ)」というニュアンスが強いですね。例えばうちの息子らがよく言う「宿題するし!」「歯ぁ磨くし!」なんて、典型例ですね。
「〇〇(動詞否定)し!」はこれの逆になります。なので「〇〇すると思ってたでしょ。〇〇しないよーだ!(してあげないよ!)」的なニュアンスを持ちます。
この流れだと「知らんし!」は「知ってると思っただろうけど、知らないよ」的な意味になるかと思いきや「どうでもいい」なんです。不思議。
「どうでもいい」は否定的な言葉なので、「知らんし!」と語尾を強めることが多いです。
「そんなん知らんし!」めっちゃ使いますね。
そして、もう一つ意味を思い出しました。
「聞いていない!」という意味もあります。聞いていないから知らないわけです。
例えば…
「明日テストあるん知ってた?」
「いや知らんし!」
「え?知らん?聞いてない?」
「いや、そんなんどうでもええねん」
「聞いてたんかい」
こんな会話、頻繁に行われてます。
改めて関西弁めっちゃムズいな。
表現が自由すぎて逆に不自由になってるよな。
知らんねん
「知らなくて申し訳ない」という意味合いは確かにあるのですが、その場合、「ごめんなぁ」が前後に付く事が多いです。
付けない場合は申し訳無さそうに「知らんね〜ん」って言いますね。
「知らんねん」の五文字だけだと、「知らん」の意味合いにしかならないと思います。
「〜ねん」の領域に入ってくると一気に関西弁感が出てきますね。
知らんがな
「関係ない/興味ない」とのことですが…
小島よしおが「そんなん知らんがな!そんなん知らんがな!」ってやってもそれなりに意味が通じるし、ファイナルファンタジー7主人公のクラウドの口癖とも言える『興味ないね』をこれに変えても…
バレット『星の生命はどうなってもいいのか?』
クラウド『知らんがな』
つ、通じる!素晴らしきダブルミーニング。
あ、『知らんやん』も同じ意味なんですよね。
『そんなん知らんやん!』ってよく言いますが、『そんなん知らんがな!』はあんまり言いません。多分、前者は韻を踏んでいるから発音しやすいんでしょうね。後者は言いにくい。だから『知らんがな!』ってスパッと五文字で言い切る事が多いですね。
知らんけど
遂にここまで来た。
「確信はない/責任はもてない」
実はこの言葉の素晴らしさに感動を禁じ得ない。
だって、たった五文字にこれだけの意味合いをもたせることができるって凄くないですか?!
正確には「そうだと思うが確信はない」
「そうだと思うが責任は持てない」ですね。
そして、情報源が不確かな時や差し出がましく発言した時の雰囲気を和ませるためだったり、自信の無さを表現したり…。
そして、この汎用性の高さ。
全ての断定的な言葉のあとにつけても違和感がないんです。
(このお二人の偉人のファンの方すみません)
あらゆる名言の後ろに『知らんけど』をつけても違和感はそこまでありません。
言葉のオールラウンダー、言葉のユーティリティプレーヤー。
『知らんけど』…恐ろしい子。
関西人にとっての『しかし』
『けど』『せやけど』『せやかて』『そやけど』『そやかて』あかん、般若心経みたいや。
関西人は逆接の接続詞を場面場面で使い分けています。会話を逆説で展開していく事が非常に多いからこそ関西弁には、これほど多くの『しかし』があるんだと思うんですね。『せやけど』の『せや』には同意のニュアンスが含まれているのも凄いことですよね。
『せやかて、そやかて』は『そうだと言っても』という意味ですが『しかし』の意味で使われることが多いですね。
『しかし』を言う時はもう一つの意味があることをご存知でしょうか?
『いやはや、まったく』という意味が。
『怒るで、しかし』『頼むで、しかし』
語尾にしかしをつけると横山やすし師匠の名台詞になります。
前の部分を強調するという効果を発揮します。
このように関西弁にとって『しかし』は少し特別なワードなんですね。
『知らん』だけでここまで書けるほどに多くの意味に溢れているのに、そこに特別な『しかし』がプラスされる。
知らん+しかし=確信はないし、責任も取れない
最高に意味がわからない方程式やで、しかし。
さいごに
知らんけどは『責任とれない』の意味なので、あまり頻繁に使うと『無責任なやつだなぁ』と思われてしまうんですよね。
容量用法はしっかり守りましょう。
気づいたら3000文字を超えていた!
いいかい息子たち、人生は知らんことばっかりだと思うぜ。それを、知っていくことがこの世を楽しく生きる方法の一つなんだよ。知らんけど。
カモミール
花言葉は『逆境に生きる』