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#801 湖の由来で喧嘩になって崖下に落ちる翁たち

それでは今日も『底知らずの湖』を読んでいきたいと思います。

話の内容は、昨夜に見た怪しい夢に関することのようでして……場所はどこだかわからないが、池のような沼のような湖があります。周囲の距離もはっきりせず、湖のかたちは鶏の卵のようです。あたりの山々には春夏秋冬が一斉に来ており、空には高い峰々、滝の音は雷のようです。ここに霧が立ちこめる洞窟があります。これはどこへ続く道なのか。梅の花は白く、鶴がおり、丸木橋がかかっている。水の底には砂金が敷かれ、夏の木の実がなり、秋の果物が実っています。ここは、極楽の浄土か、天上の楽園か……。金翼の鳥が神々しく歌い、白色の花が神々しく舞っています。なんという怪現象なのか!雨露にさらされている高札を見ると「文界名所底知らずの池」と書かれています。どこからともなく道服を着た翁が来て、そのあとから仏教の僧侶とキリスト教の信者がやってきて三人で松の根に佇み、湖の風景を見て、空前絶後の名所なりと言います。水は智、山は仁、梅は節、松は操、柳は温厚の徳、橋は質素の徳、紅葉は奢るもの久しからずという心なのか…。三人は崖をおりて湖に足を踏み入れますが、深みにはまり、跡形もなくなってしまいます。その後、新たな人物が現れます。古風な帽子をかぶり、弁慶のように七つ道具を背負い、色々な道具を提げています。今歩いているのは自か他かと哲学者のように正しながら美しい湖の岸辺に近づきます。その後、老樹の後ろから新たな人物がやってきます。頭大きく眼差し鋭く紙子羽織を着て羊羹色の和冠をかぶっています。中国の西湖にスイスの山々、地面には奇草が生えています。古風な帽子をかぶった男は丸木橋のほとりまで歩きますが、踏み外して立ちどころに見えなくなります。羊羹色の和冠をかぶった男は驚き、「この水には霊が棲んでいる」と怖がりますが、身を翻しているうちに、この男も森の茂みに隠れてしまいます。その後、崖の上に、今度は高帽子をかぶった紳士が現れます。咲き乱れる花を踏みにじり、空を仰ぎ、湖を見渡します。すると、またがっていた馬が驚き駆け出し、馬と離れた高帽子の紳士は崖の下に転がり落ちてしまいます。その後、やってきたのは八人の翁です。翁のひとりが、この湖は山の神が眼を楽しませ心を爽やかにするために作ったのだと言うと、別のひとりが、世の末になり身を棄てたくなった者がここに来て身を投げるのだ、と言い返します。すると、別の翁が、汝の言っていることも見当違いだと言います。

此[コノ]湖の水は薬水[ヤクスイ]なり。病[イタツキ]を療治[リョウチ]せんが為の賜[タマモノ]なりと知らずや。されば其昔[ソノムカシ]と縁起[エンギ]といふものめかして説[トキ]いでんとするを丁聞[テイキキ]も果[ハテ]ず止[ヤ]みね/\到底足元[ソコ]たちのいふ所は一枚五厘[リン]の由来記[ユライキ]にある妄説[モウセツ]といふものなり。そもや此湖といふは山を得て水媚[ウツク]しく水を得て山明[ウルハ]しく山水二つが離れぬといふことを見せんとてといひかくるをきかばこそあれ。庚壬戊[コウジンボキ]思ひ/\に口をひらきて我案[ワガアン]によれば云々[シカシカ]なり否々[イナイナ]おのれが思ひよれるは箇様[カヨウ]々々いなとよ云々[ウンウン]なりいなとよ然[ソウ]ではなし否[イナ]斯うなりといひつのり角[ツノ]めだち目かどたて立ちか〻り掴みか〻り掻きむしり立わかれ叩きあひ突きまろばしふしまろび叶はじと[ニゲ]いだす。散々の殺風景此[コノ]騒ぎに誤りて崖より下へまろびおちて水底[ミナゾコ]に沈みしも多かりけらし。

ということで、この続きは…

また明日、近代でお会いしましょう!

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