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#791 ここは極楽浄土か、天上の楽園か!

それでは今日も『底知らずの湖』を読んでいきたいと思います。

話の内容は、昨夜に見た怪しい夢に関することのようでして……場所はどこだかわからないが、池のような沼のような湖があります。周囲の距離もはっきりせず、湖のかたちは鶏の卵のようです。あたりの山々には春夏秋冬が一斉に来ており、空には高い峰々、滝の音は雷のようです。ここに霧が立ちこめる洞窟があります。これはどこへ続く道なのか。

彼處[カシコ]には梅の花白く鶴おりゐて月下[ゲッカ]に笻[ツエ]を曳く高士[コウシ]の魂[タマ]を消し此處[ココ]には冬枯[フユガレ]の薄がくれに危[アヤウ]げなる丸木橋のかかれるが十徳の袖に世の塵払う数寄人[スキビト]の心をもとらかさんとす。我[ワレ]笑ひて見てあれば山水悉[コトゴト]く笑へるが如く我悲[カナシ]みて向ふときは風物[フウブツ]なべて泣けるが如し。嗚呼[アア]是[コレ]極楽の浄土か。黄花黄葉[コウカコウヨウ]水に映じては水底[ミナゾコ]に金沙[コガネノイサゴ]を布[シ]き夏の木実[コノミ]秋の果[クダモノ]七重の行樹[ギョウジュ]に爛熟しては燦然たる七寶[シッポウ]眼[マナコ]を射る。

浄土真宗では、極楽浄土にある宝の樹が並木になっていることを「七重行樹」といいます。

金沙とは「金の砂」だから「砂金」のことでしょうね。ありふれたもののなかにも価値あるものが混じり、汚れた環境のなかでも清らかさを保っていることを、「砂に黄金 泥に蓮」と言いますが、読みは「いさごにこがね でいにはちす」です。

或[アルイ]はまた天上の楽園か。金翼[キンヨク]の奇[ク]しき鳥神々しく歌ひ白色[ビャクショク]の異[ケ]しき花神々しく舞ひて天上の舞楽を聞くがごとし。或はまた仙人[ヤマヒジリ]の棲める所か徑[ミチ]窃窕[ヨウチョウ]たり天空明[メイ]たり。白雲[ハクウン]心無[ノ]うして自然[オノズカラ]舳[チク]をいで碧水[ヘキスイ]情[ココロ]あるが如く紅葉を載せて逝[サ]る。そもまた此[コ]れは是大俗[ダイゾク]の人間境[ニンゲンキョウ]か妖嬈[ヨウギョウ]たる牡丹の花雨を帯びては裸躯の美女[タオヤメ]浴後[ユアガリ]の矯態[キョウタイ]を衒[テラ]ひ風のままなる青柳[アオヤギ]のしなひには女性[ニョセイ]の男の媚びも見えたり。嗚呼是何[ナニ]という変幻魔界ぞ。一面[ヒトオモテ]にして百面を具え一相[イッソウ]にして万相[マンソウ]を兼たり。春かと思えば秋、秋かと思えば夏か冬か。笑えるが如く怒れるが如く悲めるが如く歓[ヨロコ]べるが如く俗なるが如く雅なるが如く正なるが如く奇なるが如し。咄々[トツトツ]何といふ怪現象ぞや。

ということで、この続きは…

また明日、近代でお会いしましょう!

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