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#815 巫女のもとを訪れ、怨霊の口寄せをしてもらうのだ!

それでは今日も坪内逍遥の『梓神子』を読んでいきたいと思います。

近頃、「おのれ」は恐ろしい夢にうなされます。名医を招き薬を服しますが効果がありません。怒りを家人にぶつけてしまうこともあります。家人は、卜者に占わせて病状をあてさせてみては?と勧めます。占わせてみると、卜者は眉をひそめて、数多の怨霊に取りつかれているといいます。その怨霊とは、生霊なのか死霊なのか……

翁曰く、戯言事[ケゲンゴト]に侍[ハベ]らず。生霊もあり、死霊もありと見えて侍り。喃々[ノウノウ]おそろし。疾[ト]く禱[イノ]りしづめたまはずば、終生彼等が為めに役[エキ]せられて、浅ましき最期を遂[トゲ]たまはんずらんことの笑止[ショウシ]さよ、といふ。其口吻[イイザマ]いともいとも眞[マコト]らしう、いかめしう、聞くまゝに我知らずぞゞがみだちぬ。遺伝といふものと幼き折の習慣[ナラワシ]ばかりおそろしきものはなかりけり。

そういえば、「遺伝」って表現は、いつから使われているんでしょうね……

或ひはさることもや、と怖気づきては打棄ても置難[オキガタ]く、若し翁のいふ所の如くば、そも如何にせば可[ヨ]からん。如何さまに何方[イズカタ]に向ひて罪を謝[ワ]び、祈禱をすべきぞ。方角を教えたまひてよ、と乞へば、卜者額[ヒタイ]に手を加へて、足元[ソコモト]に取[トリ]つきたる生霊、死霊は、一種不思議の怨霊なれば、何處[イズク]に宿れるものぞとも、如何なるものぞとも僕[ヤツガレ]の力にては得知[エシリ]がたし。卜筮[ボクゼイ]の通力[ツウリキ]の及ばざる也。案ずるに、炊[カシ]ぐ事は磨[ト]ぐことより後[ノチ]にすとあり。祈禱、調伏[チョウブク]に着手あらん前に、彼[カ]の神子といふものを訪[ト]うて、怨霊の口を寄せたまふべし。而して後に祈禱、追善[ツイゼン]、調伏、法會[ホウエ]宜しきに随うて修行あるべきもの歟[カ]、心得たまひしか、といふ。流石に思ひ当る節[フシ]の無きにしもあらず、急ぎ卜者に暇[イトマ]を告げて、家に帰り、軈[ヤガ]て人を四方を走らせ、今も尚ほ神子といふものやあると遠近[オチコチ]に尋ねさせぬ。凡そ物は其需用[ジュヨウ]のあらん限りは、人為もて断滅[ダンメツ]すべきものにあらず。肉食[ニクジキ]の許されざりし昔、鰌[ドジョウ]の踊子[オドリコ]と換名[カエナ]して般若湯[ハンニャトウ]と共に不許葷酒[フキョグンシュ]の梵刹[ボンサツ]に出入せし例[タメシ]を思へば、禁制の效能[コウノウ]はひとへに物の名を磔[ハリツケ]にするのみなり。

以前に#077で肉食に関することをちょっとだけ紹介しましたが、日本は肉食禁止の勅令がたびたび発布されたため、いわゆる隠語が発展しました。まぁ……つまり……裏ではこっそり食べていたわけですねw……。馬肉は「桜」、猪の肉は「牡丹」、鹿の肉は「紅葉」、鶏肉は「柏」。僧侶は魚も酒も禁じられていたため、隠語が豊富にあります!鮎は「剃刀」、たこは「天蓋」、うなぎは「おんぞう」や「鉢巻」、鰌は「踊り子」、そして酒のことを「般若湯」と言っていました。

ということで、この続きは…

また明日、近代でお会いしましょう!

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