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物語

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#小説

ベルリラメッセージ

ベルリラメッセージ

「次の企画、お前やってみる?」

事務所の前で偶然会った奥村さんが、「あ、そういやさ」と軽い口調で言った。
あまりにも軽い口調でそう言われたので、言葉を理解する前に、目の奥でチカチカと何かが点滅するような感覚に襲われる。

「むむむ無理です私なんぞ…!」
結局、そのシグナルが何か考える前に口走っていた。

「そか」

あっさりと引き下がった奥村さんは、そのままドアを開けて事務所に入ると、それ以上は

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よもぎは花束になりたい

よもぎは花束になりたい

蓬田は、女の趣味が悪い。

うっすらと意識しているような、それでいて恋の対象とはまた違うような、とにかく蓬田という男子に惹かれていたのだが、蓬田は、どういうわけか、私が好きになって欲しくない女子が好きだ。

クラスには、男子がみな夢中になる女子がいた。
声色は高く、肌の色は色素が少し抜けているような透明感があって、それなのに、ケラケラとよく笑い、親しみやすさを醸し出している。
特段美人でもないのだ

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この世界の温度

この世界の温度

ギュッギュッギュッ…
美知子は、雪の上を歩くのが好き。
ギュッギュッギュッ…
月夜に照らされる白い足跡。

豪雪地帯のこの村に、お嫁に来た初めての夜は満月だった。
月明かりに照らされて、驚くほど明るく光る雪景色。
「少し歩きましょうか」
そう言われて、夜の散歩に繰り出した。
ギュッギュッギュッ…
辺り一面真っ白な世界に、聞こえるのは2人の足音と、かすかな呼吸音。

「美知子さん、誤って田畑に落ちる

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ゾウは自分の意思で虹をかける

ゾウは自分の意思で虹をかける

「自分の意思で虹をかけるのって、人間とゾウだけなんだよ」

ある日、不意に話しかけられた内容は、妙にファンタジックだった。

彼は、言いながら黙々とゾウの絵を描いている。

「え、そうなの?クジラは?クジラも虹出すんじゃない?」
私は、思いついて、意地悪く否定する。

「クジラはさ、たまたま潮を吹いた時に虹がかかるんだ。でも、ゾウは、虹を出そうと思って水を撒くんだよ。それって、同じ虹でも、大分違う

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