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メリー・モナークin大原田 最終話
「……という、フラッシュモブの主役をかっさらう、全く空気が読めない男です!」
真咲の話に、会場がどっと笑いに包まれる。
「しかも、一度はフってしまう姉ちゃんも、空気が読めない女です!」
あの日、ピンクのレイを持って走ってきた友也くんに、私は心の底からギョッとした。落ち着け友也、よく考えろ、私たちは、まだ2回しか会った事がない!
男女それぞれが遠方に住むため、合同練習の時間が取れず、リモート
メリー・モナークin大原田 第十二話
その日は朝から晴れていた。5月にしては少し暑すぎるんじゃないかという日差しに反して、潮風は冷たさを含んだ心地のいいものだった。
医療用ウィッグコレクションは2つに増えていた。ひとつはニット帽用、ひとつは、昼寝から起きた時に、慌てて着ける用だと言う。今日は、薄いブルーのコットンニットの帽子に、クルンとカールされたウィッグが覗いていた。
念の為にと姉ちゃんが先生に確認を取ったら、「風邪だけは絶対
メリー・モナークin大原田 第十一話
「これを完璧にできたら」
円花さんの出している紙は、いわゆる振り表というもので、フラダンスの振り付けが、歌詞と共に描かれているものだった。パッと見ただけでも、それがペアの動きのものであるのがわかる。
「……花花の!」
先に反応したのは友也だった。姉ちゃんは動かない。
「……そこまでの勘は戻らないよ」
円花さんから目を逸らす姉ちゃんは、いつもの姉ちゃんではない。あの日の姉ちゃんだ。
「どうして
メリー・モナークin大原田 第十話
「花乃さんの家は、夜に洗濯するんですね」
和室の隣の縁側にあたる廊下で洗濯物を干していると、友也くんが和室の入り口から申し訳なさそうに首を出して話しかけてきた。
「うん、お母さんがフルタイムしてた頃からの名残で。ここに干しとけば、日中も日があたるしね。ていうか、どした? 入っていいよ?」
そういうと、
「いや、洗濯物はお手伝いしない方がいいかなって」
照れくさそうに、細い目の際を掻いている。
メリー・モナークin大原田 第九話
寒さが緩む日がふっと訪れて、春が来たかと気持ちも緩む。その頃合いを見計らってか、「まだ油断するなよ?」と言わんばかりに寒風吹きすさび、勝手に裏切られた気持ちになってくしゃみをひとつ。梅の木に雪がちらついています、というニュースが流れた頃、いよいよ母さんの脱毛が始まった。それに備えて、ベリーショートになっている。
こないだ不意に思い出した、腰までロングヘアーだった母さんの後ろ姿を思い出す。くるく
メリー・モナークin大原田 第八話
「『あの花花』って、アイドルグループじゃあるまいし……」
私は、画面に映る3人の青年たちの顔を眺めながら顔を顰める。
ちょうど、リモート業務が終わった時にビデオ通話が来たので、つい出てしまった。真咲がドアップで
「姉ちゃん、姉ちゃん!」
と叫んでいる。いい歳して5歳も離れた姉に、そんな嬉しそうにビデオ通話をするかねぇと呆れていると、後ろから、ポワポワとした素朴な顔をした青年が
「ああああ!
メリー・モナークin大原田 第七話
4月に披露する舞空の練習を終えたあと、恩田先輩に我が家の事情を話すと、思った以上に真剣な顔で聞いてくれた。我が家の一大事というところまでは説明していた友也も、隣で一緒に頷いている。フラダンスの説明のくだりで口をポカンと開けていたが、当然の反応だとスルーした。最後まで全部頷いていてくれた恩田先輩も
「で、どうしてもフラダンス? 俺たちの舞空だとダメなのか?」
と、腕を一本は真横に、一本は胸の前に
メリー・モナークin大原田 第六話
工藤円花の家は、木々の向こうに遠く、海が見える。あの、ほんの少しだけしか見えない水平線に、それでも心が奪われるのは、ここが円花の家だからなのだろうか。
玄関横には広々としたウッドデッキがあって、十数名ほどならそこで踊れるだけの広さがあった。青空の下で踊れる贅沢な作りだ。そこから続く室内は大きな掃き出し窓になっていて、白い壁に囲まれた空間が広がっている。まさに理想のレッスン室だった。
「ちょっと