本棚の奥の「シリウス文書」② 創作小説全6話
ファミリー
達夫はメタバースからリアル空間に戻り夕飯を取っていた。普段は母、美和子と二人で食べる夕飯だったが、帰りの遅い父、裕和と3人で一緒になるのは久しぶりだった。なんとなく母が嬉しそうな雰囲気を出していたのが達夫は嬉しかった。そして食卓に並んだ料理にがっついていた。
「来週末に大事な仕事がある。それを終えたら3人で寿司でも食べに行かないか。」
「あら、いいわね、外の外食なんていつ以来かしら」「回らない寿司がいいなあ」と達夫がねだる。
外食産業は少なくなっていた。殆どの家庭でリアルでは栄養チューブを摂りメタバース内で仮想のレストランや居酒屋で楽しんでいた。それで人々は満足する事に数年で慣れてしまったのだ。裕和が「人間らしい料理」に拘り、この家庭では世の中が変わる前の食事をするようにしていた。食べるものは肉体的な栄養補給だけでなく魂を育む。それが裕和の考えであった。金は倍以上かかるが裕和の収入で何とかなった。
ヨギー
TERUTERUは大隅半島のヨギーだ。コンピュータ化する社会を拒絶し山奥に入り山菜や木の実を取り、海では魚を釣って暮らした。
昨夜は瞑想中に気になる声が聴こえてきた。旧友の声だ。「世界を反転させる」「人類を外面に出す」
TERUTERUは旅の支度をした。都会に出ねば。声の意味は全くわからなかったが呼ばれている気がした。手を付けていなかった現金を財布に詰めた。空港で現金を出すとギョッとされたがTERUTERUは気にせずチケットを受取り飛行機に乗り込んだ。
③に続く
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