【小説de俳句】『死者の書』折口信夫
鴨鳴きておもかげひとつ残りけり
謀反の疑いで命召され、二上山に埋葬された滋賀津彦は、死の直前に見た耳面刀自の魂を、50年後の世に生きる藤原南家郎女の中に見出す。
魂の道のひらける中日や
この美しく聡明な姫は、唐からもたらされた新訳の阿弥陀経の写経をし始めてから、春分と秋分の彼岸中日、二上山の男嶽と女嶽の間に、神々しい阿弥陀仏の姿を見る。次の春分の日、千部目の最後の文字を写し終わり、窓を見ると、雨。仏の姿を見ることの叶わなかった姫は、その夜、神隠しに会ったように、ひとりでひたすら西へ西へと歩き、二上山の麓の女人禁制の寺へ着く。
伝へたき思ひに宿るいのちかな
女人結界を犯した罪を贖うため、寺の近くの廬に籠っている姫のもとに、夜な夜なつたつたと訪れる足音。姫は滋賀津彦と仏の姿を重ねる。姫に昔語りをする土地の 媼は、天に弓を引いた天若日子、隼別皇子、滋賀津彦を同一視する。姫と切り離された媼の魂は、二上山に現れる尊い裸身に纏わせるための布を織る姫の夢の中に、織り方のコツを教える尼となって現れる。
*滋賀津彦のモデルのひとりは大津皇子。
「もゝつたふ磐余の池に鳴く鴨を今日のみ見てや雲隠りなむ」(万葉集 巻3 416)
*藤原南家郎女のモデルのひとりは中将姫。奈良の當麻寺に伝わる『当麻曼荼羅』を織ったとされる、日本の伝説上の人物(wikipediaより)。
*写真は以下のサイトよりお借りしました。
(川本喜八郎監督の人形アニメーション『死者の書』より)
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