「マイナスをプラスに変える力」と「笑い」
今日、心にあるモヤモヤを聴いてもらった。
「話すと自分のことがわかったりしますよね。発見があります」と優しく返してくれた。結果、前向きになっている自分がいて、朝見たナンテンの赤い実を思い出した。
最近なんだかいろいろな人にモヤモヤした思いを聴いてもらい、結果、気持ちがリセットできる。有難い。
まさに、難を転じて福となす!
「難=マイナス」「福=プラス」と捉えることもできる。
そこで、今日はそんなことをテーマに書いた20年前のエッセイ「マイナスをプラスに変える力」をお届けしたいと思います。
エッセイ「マイナスをプラスに変える力」
2004年6月
アメリカで行われた、あるセミナーで出会って以来交流のあるKさんから佐藤初女さんの話をメールでうかがい、興味を抱く。そして、Kさんとのやり取りの中で、ふと、彼女は以前読んだ柳田邦男の著書の中に取りあげられていた方ではないかと思う。何冊か調べてみると、柳田邦男・河合隼雄著『心の深みへ 「うつ社会」脱出のために』の中で柳田氏が取りあげていたことが確認される。
佐藤初女さんは青森県弘前市の岩木山の麓、標高400メートルの湯段温泉の地に、憩いと安らぎの家「森のイスキア」を主催されている方だ。そんな彼女著書の中の言葉に心揺さぶられる。
私は、ほんの少し前まで深い絶望の淵の中にあった。自分の全てを否定せずにはいられない日々が続いたのだ。その渦中にあるとき、私はそこから這い上がる気力さえ失っていた。生きることに前向きになれなかったのである。しかし、あのとき苦しみぬいたからこそ、今の心の平穏があることを知る。
良寛のこの言葉をたまたま異なる著書で目にする。そして、初女さんの言葉とどこかつながるところがあることに気がつく。「苦しみを否定せずに、自分の心をまっすぐ見つめる」一見すると矛盾しているように思われるが、この姿勢が自分自身を肯定し、受容していく上で必要不可欠なことなのだと実感する。「急がば回れ」、つまり逆説の世界である。
伊丹仁朗『笑いの健康学』に森田療法について言及されている箇所があった。そこには、森田氏は「不安とか、死の恐怖は心のやりくりで簡単には無くすことができない。だからそのような不安や恐怖を持つ心の状態はそのままにしておいて、今、ここで今日一日を前向きに生きようと勧めた」とあった。そして、伊丹氏は「人間にとって大事なことは、不安がまったくない心の安寧ではなくて、今日一日何を成しとげたかである。そして、今日成しとげたことに目を向け喜ぼうと考える」と森田療法について語る。さらに、「大事なのは、ひどい状況を笑いの方向に転化できるだけの想像力ですね」と付け加える。
ふと、八木重吉の詩が頭を過ぎる。
さらに、金子みすずの「わらひ」が想い出される。
人が抱える憎しみや悲しみがこんな風に美しく変化を遂げたなら、どんなに素敵だろうと思う。そして、それが実現不可能ではないことを信じたいと思う。人には本来マイナスをプラスに変える力が備わっているのだ。「大事なのは、ひどい状況を笑いの方向に転化できるだけの想像力ですね」という言葉を真だと思った。 (完)
笑える今
50歳を迎えても、なんやかんやと悲しんだり、悩んだり、怒ったり。一方で、喜んだり、感動したり。喜怒哀楽を繰り返す日々。
今日はモヤモヤした思いを聴いてもらった後に立ち寄ったお店で、苦労の数々を重ねたからこそ、今がある女性の話を聴いた。「昔の苦労があるから、今はの私はある」と語っていた。苦労の度合いは違えど、私も重なる部分はある。
人からしてみると「えっ、そんな経験をされていたんですか?」と思われるようなことを今は笑って話せてしまう。それはある意味、つらかった時期から距離が取れるようになったと言えるのかもしれない。そして思うのだ。苦しんだ時期に多くの言葉に力をもらっていたこと。まっすぐに言葉が届いていたのだ。書くこと同様、読むことでも私は救われてきた。たくさんの本を読み、そこにある言葉を書き写し、私の心は浄化されていたのかもしれない。
20年前の言葉が今もまだ鮮やかなのは、何度も何度も読み返し、何度も何度も心の中で反芻してきたから。言葉たちに笑うことの意味を教えてもらった。そして、マイナスをプラスに変える力を言葉が与えてくれてた。
それは多くの人からかけてもらった言葉も同じ。昨日も、今日も、きっと明日も、私は言葉に助けられる。だからきっと、本を読んだり、話を聴いたりする。そして、言葉を書いたり、語ったりして、何かできないかと思ってしまうのだと思う。でも、もしかしたら、言葉で誰かを傷つけたり、悲しませたりもしてしまうかもしれない。想像力は大事。
私はやっぱり、言葉の力を信じたい。そして、あなたが出合う言葉で笑える今が訪れたらうれしいと願うのです。