本雑綱目 58 ローデンバック 死都ブリュージュ
今回ローデンバック著『死都ブリュージュ』です。
岩波文庫、ISBN-13 : 978-4003257814。
NDC分類では953、文学>小説. 物語(フランス文学)に分類しています。
これは乱数メーカーを用いて手元にある約5000冊の本から1冊を選んで読んでみる、ついでに小説に使えるかとか考えてみようという雑な企画です。
★図書分類順索引
1.読前印象
おん・・・小説・・・・。
小説って正直、抜き読みできないんだよな。僕の本リストの中には900の文学分類に入っている本自体は結構あるんだけど、ここには資料用古典やエッセイが大半で純粋な、いわゆる小説といえるものって多分古典文学20冊くらいしかない。
200頁ちょいの薄い本だけどどうしたものか。
2.目次と前書きチェック
はしがきを読む。この本においてブリュージュは単なる都市ではなく、登場人物である。やば、結構強い引きだな(僕にとって)。
目次は『はしがき』、『死都ブリュージュ』、『解説』のみ。小作品がついていることを期待したがない。はしがきで興味を引かれるという珍しく本来の役に立ったはしがきだが、かといって170頁を読むのは結構億劫。とりあえず『解説』を読んでみるという後書きを読んで読書感想文を読むような所業に出てみる。これ興味持ったら全文読むコースだけどそれは読みたい程中身が魅力的ということで。そうでもなかったら関連論文を読んでみよう。
このマガジンの趣旨は短時間で資料の確認と整理がしたいのであって、小説を読みたいわけではないのだ。1章をちょっと読んでみたら面白くはあるんだけど。
3.中身
『解説』について。
この本の主人公は都市自体であり、過去である。そしてこの死都というイメージは、ブリュージュの複雑な背景から生み出されている。それは現在住んでいる民より離れた民のほうが、よほど強く印象づけられるものかもしれない。
だいたいの小説において登場人物は当然ながら人間なわけだけれども、なんとなくこの場所が主人公という観念は日本でも理解しうるものだと思う。例えば因習村とか呪われた村などのホラーの舞台は、大抵は訪れる人間より村及びその因習自体のほうが主役なのだ。けれどもこの本は恐らくホラーではない。恐怖というものはそれだけで人に強いインプレッションを与えるけれど、このブリュージュは単独の感情ではなくおそらくそれ総体として、人と会話をする時と同じように居ながらに様々な情動を伝える、ことがうかがえる話なのだと思う。
うーん、どうしよう、気になってきた。よし、雰囲気がわかるまで読む!
『死都ブリュージュ』について。
結局全部読んだ。いわゆる純文学だと思う。
作中にブリュージュの風景というよりは、ブリュージュの人に与える憂鬱感や宗教因習的な空気感が描かれている。主人公のユーグとその取り巻く関係性が変化する度、ブリュージュはユーグに近づきまたは遠ざかる。この意味でブリュージュというものはこの本の中で登場人物と言えるし、強固なキリスト教文化を背景とした場を支配する権威ともいえる。ユーグが徹底的に弱者として描かれているからこそ成り立つ街というキャラクター性だけど、どうもこの手の主人公好きじゃない(好みの話)。
ストーリーとしては面白いかというと、どっちかっていうと詩、というかポエムだし古典なので新規性といったものは全く無いけれど、都市とユーグの相似形ともいうべき関係性は面白かった。そう思う一方で、先に『解説』を読んでいなければこの面白さには気づかなかったかもしれない。えっと最後これはホラーなの? 文化差異もあるけれど、どう捉えて良いのかよくわからないっ。
全体的に、小説の内容より都市づくりが好きな僕としては、わりとこういう書き方面白なって思う。けど純文系の話は苦手だ。なんか全然響かないんだよな。人として底が浅いのかもしれない。正直な所、多分都市がキャラクターだという解説を読んでいなければ、するっと読み飛ばしていた気はする。
小説に使えるかというと、直接は難しいだろう。けれどもこの都市という背景やモノといった影響が人に与える影響と考えれば、その書き方は参考になるかもしれない。特にホラー分野。これを恋愛に活かすにはちょっと難易度が高い。っていうかこの小説のジャンルは何なんだ?
4.結び
商業小説って昔はよく読んでたけど自分で書くようになってから全然読んでないんだよね。なんとなく読書スタイルが資料を必要なところだけピックアップするのに特化してる気がする。小説って読み飛ばすの難しいからな……。
それはそれとして、この本は三人称視点で書かれているんだけれど、時々その三人称であるナレーターが感想を述べるんだよ。ひょっとしてこの三人称の呟きは真に街が呟いているという叙情的な表現なんだろうか。そうだとしたらかなり面白いんだけど。シュールだなと感じるのは翻訳の問題なのかもしれないし、僕が現在の文章術に毒されすぎているからかもしれない。
次回は古田武彦著『「風土記」にいた卑弥呼 古代は輝いていた 1』、です。
ではまた明日! 多分!
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