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【作品紹介】釣狐

 狂言の演目として知られる釣狐つりぎつね
 『猿に始まり 狐に終わる』と云われる能狂言の世界にあって、この『釣狐』もまた演者の技量を厳しく問われる演目になっているとのこと。
 此度は、この演目の主人公白蔵主はくぞうすをモチーフとして製作しました。

面をつけたシテではなく、老狐そのものを彫ってみました。

 念のため『釣狐』の概要を簡単にご紹介させて頂きましょう。

 猟師に大勢の仲間を狩られてしまった老狐が、狐釣りきつねつりを止めさせるために、猟師の伯父で僧侶をしていた白蔵主に化けて、猟師の元を訪ねます。

手彫りの限界を感じつつも、道具や作法で克服する愉しさを堪能しています。

 老狐が化けた白蔵主は、狐が稲荷神であること、そして命を奪われた狐の怨念が、殺した者を殺生石せっしょういしにしてしまうと猟師に伝え、狐釣りを止めるように諭しました。そして、この不穏な話を聞いた猟師は、狐釣りを止めることにするのでした。

僧の衣装に物足りなさを感じたため、角帽子すんぼうしを冠らせました。

 甥を説得することに成功した老狐は、帰路の途上で罠に仕掛けられた餌を見つけます。重責を終えて浮かれていた老狐は、それが罠だと分かりながらも、目の前の餌に我慢ができなくなるのです。
 結局、老狐は白蔵主から元の姿に戻り、好物の餌を口にしてしまうのですが・・・さて、この後、老狐はどうなってしまうのか?

 おっと、このくらいで止めておきましょうね(微笑)。

『釣狐』にとって欠かせない竹の杖は、拙作にとっても重要な小道具に。

 この演目の見所は、理性と本能の間を揺れ動く老狐の姿だと私は感じています。これこそ正に『人間の姿』でありましょう。
 そして、この逡巡する老狐の姿には、経験が豊富で知恵がある者でさえ確証バイアスに陥る危険性があるという教訓が通底しているのです。

これまでの製作してきた作品の中で『一番小さな場所』に銘を刻みました。

 とかく人間は、何かを決めなければならない時、或いは、危機に直面した時に、自己都合に即したさもありなんな理由屁理屈を捻りだし、『その時の自分』にとって都合の良い方を選択してしまうものです。

 本作は、こうした人間の本能・性を戒めるべく、誰もが陥る可能性のある『確証バイアスの罠』を回避するための御守り戒めとして製作しました。
 バイアスの罠は、あらゆるところに潜んでいます。その魔境まさかいを適切に見極めながら回避していきたいものです。

『昭和のガム』よりも小さいです。

 さて、後一ヶ月足らずで師走を迎えます。
 何かと物騒な今日この頃ですが、『他人様の身に起こりうることは、自分の身にも起こりうる』と捉え、これまで以上に気を引き締めていきたいと考えているところです。
 それでは、稀有で酔狂で賢明なる皆様にありましては、焦らずたゆまず怠らずの精神を以て、心丈夫に過ごして参りましょう!

闇夜を歩く老狐をイメージして納めました。

ご案内

興味を持たれた方は、Creema まで遊びに行ってみて下さいませ。

【作品名】
 釣狐(つりぎつね)
【製作年月】
 令和6年10月完成
【使用材料】
 本体:黄楊(ツゲ:御蔵島産)
 他の素材:鹿の角(顔部分:象嵌+補強で接着剤)
 仕上げ材:染料(ヤシャブシ・茶粉・木酢酸鉄)、イボタ蝋 
【サイズ】 ※最大部分で計測した凡その寸法 
 本体サイズ:長辺(高さ) 46㎜ × 短辺(幅) 22㎜ × 厚み16㎜

安堵の中に見え隠れする寂寥感を見い出して頂けたなら幸い至極。

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