シン映画日記『逆転のトライアングル』
TOHOシネマズ日比谷にてリューベン・オストルンド監督最新作『逆転のトライアングル』を見てきた。
ロシアの大富豪に武器商人夫婦、ファッションモデルのカップル、成金の中年などセレブを乗せた豪華客船が嵐で走行不能になり、船内がパニックに陥る中で海賊に襲撃を受けて沈没事故を起こす。この事故で命からがら生き延びた乗客やスタッフらは無人島にたどり着くが、そこではサバイバル能力に長けた清掃婦のアビゲイルがグループ内の頂点に立つことに。
映画は三部構成でファッションモデルのヤヤとカールのやり取りを主とした第一部、豪華客船内の様子を第二部、無人島サバイバルを第三部とし、
限られた空間、シチュエーションでのパワーバランスやヒエラルキーの変化と人間の本性を徹底的に見せる。
作品は第二部からが本番という感じで、
豪華客船内で
セレブの客と
彼らに尽くしチップを貰うために働く船内クルー、
さらに船内クルーに指図されて働く清掃員たちというように、
『ゲームの規則』や『ゴスフォード・パーク』のような階級別ヒューマンドラマを展開。
第三部は集団での『キャスト・アウェイ』のような無人島サバイバルで、
この場で魚捕り主体の食料調達や火起こし、調理が一通り出来る清掃員のアビゲイルが重宝され、
一気にグループ内のリーダーにおどり出る。
まさしく邦題のようにヒエラルキーが逆転する『逆転のトライアングル』現象が起こるが、
それだけでは
第二部が豪華客船内『ゴスフォード・パーク』、
第三部が集団『キャスト・アウェイ』になってしまうが映画の本質はそこではない気がする。
タイトルの原題「Triangle of Sadness」は形成外科用語で簡単な治療で治すことが可能な眉間のしわのことを指し、これを第一部の早い段階で出てきてるという親切な脚本。
第一部のカール目線の撮影現場やモデルのオーディション、ファッションショーの会場、
ヤヤとカールのレストランでの会話など繊細な不穏、空気を作り出している。
それこそ眉間にしわを作りたくなるような些細なこと、違和感だが、そこにこの映画の本質があるように思える。
リューベン・オストルンド監督の長編デビュー作『フレンチアルプスで起きたこと』は雪山に泊まる家族が突如出くわしたある出来事から関係がおかしくなっていくサマを描き、
本作も根本にはこの応用になる。
ここに出てくる様々な登場人物の言動から醸し出す微妙な空気とその場その場で変化する持つ者と持たざる者。
その“持つ”というのも様々あり、
「お金」、「容姿」、「能力」、「物」、「権力(支配)」、「権利」、「権限」、「リーダーシップ」、「食料」、「欲望」、「行動力」、「倫理観」、「道徳」
など、
これが第一部&第二部と第三部で大きく変化する。
この登場人物たちの中で、
ファッションモデルのカールとヤヤがいることで、
単純に「お金」とか「能力」以外の部分での微妙なヒエラルキーが発生し、その対極になるのが清掃員のアビゲイルになる。
アビゲイルこそ「お金」がなく、豪華客船内では「権力」も「権利」などあらゆるものを持たず、
無人島サバイバルでは「能力」で無人島コミュニティ内で成り上がったが、
ヤヤとカールはアビゲイルにはないものを持っているので、
ラストシーンはそれに繋がる。
単純なようで、
奥行きがある映画で
『フレンチアルプスで起きたこと』の発展型のようなシチュエーションヒューマンドラマだった。