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本を地図に旅したい

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書評というより、本を読んで自分の生活や考えが具体的にどう変わったか、みたいなことを書こうと思っています。
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#読書

とりあえず他者とは、決断するときに「肩を借りる存在」

『他者と生きる』という本を読んだ。

まず印象的なのが「狩猟採集時代」の話。最近流行った『スマホ脳』や『ファクトフルネス』といったベストセラーでは、論の根拠として、狩猟採集時代の人間はそんなことをしていなかった、という話が使われる。

個人的にも、だいぶ前のことだけど、人間は前歯と犬歯と臼歯の割合がこうだから、こういう割合で肉と野菜と穀物を食べるのがいい、と話している人がいたのを思い出す。たしかに

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無意味に目を向ける感受性と、立ちすくむ感受性――岸政彦著『断片的なものの社会学』

一般的な文脈に乗らない「無意味な」ことが妙に心に残っている。そんなことが自分の日常にもある気がする。『断片的なものの社会学』には、社会学者の岸政彦さんが研究などを通じて出会った、一見無意味に思えるような会話ややりとり、それについての考察が書かれている。

例えば、沖縄の歴史の聞き取りをしているときに、外で取材相手の家の子どもが「犬が死んだ!」と叫ぶのが聞こえた。インタビューされている父親は一瞬だけ

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人間関係に風穴をあける役割

つまりは人間関係なのではないかと思うことがよくある。

仕事でも人間関係がよくないと、コミュニケーションを億劫に感じてしまって、いいアイデアを思いついても、それを言わずにおく方を選んでしまったりする。ちょっとしたトラブルがあって一言謝ればよかったところを、それを怠ったために硬直した関係が続いてしまうこともある。

でも、というか、だからこそ、あるきっかけで人間関係に風穴が開くと、清々しい気分になる

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日本に発酵食品があるのは灰のおかげ

小泉武夫著『灰の文化誌』を読んだ。発酵と灰の関わりは深い。日本の発酵食品に使われている「麹菌」を分離できたのは、灰があったおかげだ。

雑菌の多くはアルカリ性に弱く、アルカリ性である灰よって死滅させることができる。ところが麹菌はアルカリ性に強いため、灰の中で生き延びることができ、その性質を利用することで純粋培養が可能になる。そうやって手に入った質の高い麹菌を使って、味噌、醤油、日本酒といった日本独

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テプラの裏には愛すべき世界が広がっている

 大学のときの授業で、唯一興味を持ったのがユーザインタフェースの科目だった。おもしろいと思ってレポートを自分なりに書いたら落第して、何かの間違いじゃないのかと講師に訴えたところ、普通にできが悪いからだと言われ、へこんでそれきりになってしまったが、その興味を育てていたらどうなっただろうかと思うことがある。そんな気持ちが刺激されて『失敗から学ぶユーザインタフェース』という本を手に取ってみた。

 世の

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IKEAに自転車で行く

前に津村記久子さんのトークショーを見に行ったのだけど、それに先だって『エヴリシング・フロウズ』を読んだ。

「IKEAに自転車で行く」という設定を知った時点で、すでにやられたという感じがしていた。津村さんの本は設定が毎回おもしろいというか、ツボだ。前の作品でも梅田のスカイビルへの地下道が大雨で水没してしまい、そこをボートで行く設定がとても良かった。ノエウチンダイとかレアな地名が出てくるのもクスッと

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体得する感じを体験したい

高橋秀実さんの『はい、泳げません』を読んだ。

泳ぎ方を解説したり、手ほどきしたりする本は世の中にたくさんある。でもこの本がユニークなのは、著者自身がまったく泳げないこと。そこからのスタートなのだ。水が怖い、という状態から著者は水泳教室に通い、一進一退を繰り返しながら、少しずつ泳ぎを体得していく。

つまり「ずっと泳げなかった人が泳ぎをマスターしようとするとどうなるのか」という体験ルポだ。泳げない

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反対する理由が見つからないけど、賛成する理由も見つからない

『明日の食卓---有機農業と遺伝子組換え食品』という本を読んだ。

有機農業家である夫と、遺伝子組み換えの研究者である妻によって書かれたもので、有機農業と遺伝子組み換えの組み合わせが将来の農業にとって最善の戦略ではないか、と提案をしている。

「遺伝子組み換え」と聞くと、すぐに危険か安全かと考えてしまうけど、そもそも遺伝子組み換えとはどういうものか、よくわかっていなかった。この本を読んで、あいまい

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判断すべき角度を狭めてくれる

エミリー・オスター著『お医者さんは教えてくれない 妊娠・出産の常識ウソ・ホント』を読んだ。原題は『Expecting Better』。より良く期待しよう、みたいな意味だろう。

アメリカの経済学者である著者は、最近出産を経験し、そのときに確率的に物事を判断することを迫られた。

例えば、妊娠時にお酒を飲んでいいのか? コーヒーを飲んでいいのか?

一般的にはダメとされているが、それはどのくらいダメ

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「グラウンドルール」作りがおもしろい

それほど利用しているわけではないけど、スターバックスの接客はいいなと思ったことがある。カウンターでコーヒーを選ぶとき、個人対個人の会話をしてくれているように感じたのだ。別のお客さんに「旅行ですか?」と話しかけている店員さんもいた。1対1で対等に接することがポイントなのだろう。

スターバックスにはどうしてそういう店員がいるのか興味を持ったので『スターバックスの教え』という本を読んでみた。

この本

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緑の革命は間違いだとは、とても言えなくなる

前にヴァンダナ・シヴァさんが書いた『緑の革命とその暴力』という本を読んで、緑の革命の負の側面はわかったのだけど、良かった面が書かれていなかったので、そこをもう少し詳しく知りたいと思った。

そこで「緑の革命の父」と呼ばれるボーローグについて書かれた『ノーマン・ボーローグ』という本を読んだ。これを読むと、緑の革命は間違いだとは、とても言えないなあと思う。

まずなるほどと思ったのは、ボーローグの活動

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酸味で世界を見てみたい

南インド旅行の前に、南インドの料理について書かれた『ごちそうはバナナの葉の上に』という本を読んだ。著者の渡辺玲さんは現地で出会った南インドの料理にほれこみ、インド料理店で働いた後、料理教室やケータリングなどをやっている人だ。 自分は料理をするほうではないし、詳しくもないのだけど、この本で基本的なことがわかってためになった。

まず、南インドは米の文化であるということ。北インドは小麦が中心なので主食

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自分を律することができるかどうかが人間の質を決める

同居人は田舎暮らしというか、自然の中で暮らすことに憧れており、自分はどちらかというと警戒感を持っている。そんな田舎暮らしのネガティブな面をおさらいしたいと思ったからか、丸山健二著『田舎暮らしに殺されない法』という本に手が伸びた。

著者は長野の安曇野に住む作家。子どもの頃は長野で育ち、都会に出て作家になった後、再び長野に戻った人だ。都会も田舎も両方知っているという視点から、安易に田舎への移住を決め

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言葉は世界と結びつかないと覚えられない

英語を勉強するのに、あり得ないシチュエーションの会話文を覚えても仕方がない。これまでそんなふうに思うことがしばしばあったけど、橋本陽介著『7カ国語をモノにした人の勉強法』を読んで、その違和感が理解できた気がする。

この本で中心となっている考え方は、言葉は実際に自分がいる世界と結びつかない限り覚えられないということ。だから単語帳だけを見て覚えようとしても覚えられないし、仮に覚えたとしても身につかな

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