緑の革命は間違いだとは、とても言えなくなる
前にヴァンダナ・シヴァさんが書いた『緑の革命とその暴力』という本を読んで、緑の革命の負の側面はわかったのだけど、良かった面が書かれていなかったので、そこをもう少し詳しく知りたいと思った。
そこで「緑の革命の父」と呼ばれるボーローグについて書かれた『ノーマン・ボーローグ』という本を読んだ。これを読むと、緑の革命は間違いだとは、とても言えないなあと思う。
まずなるほどと思ったのは、ボーローグの活動はつねに「人口という怪物」との戦いだったということ。
緑の革命が起こる前、1960年代初めごろは、人口増加による飢餓が深刻だった。当時の学者や政治家の間では、インドやパキスタンのような人口の過剰増加で飢餓が起っている国を救うのはもう無理だから、人口が自然に減るのに(つまり飢え死にするのに)任せるべきだという声が強かった。
そんな中、高収量の小麦品種を導入することで、穀物の生産量を倍増させ、アメリカやオーストラリアから何百万トンも輸入してもまだ飢えていたこれらの国を100%自給できるようにしたのが緑の革命だ。
その小麦品種の特徴は、従来よりも背が低く、茎が太いこと。そのため大量の肥料を与えても倒れることがなく、栄養が効率的に実に届き、収量を上げることができる。
そもそもこの小麦の開発は、メキシコで「さび病」に強い小麦品種を作るところから始まった。当時はさび病が大規模に流行していて、食糧供給の安定にはそれを克服することが課題だった。
そこでボーローグが編み出した方法が「シャトル育種法」。
これは離れた場所にある2カ所の農場(低地と高地)間で種子を移動させ、環境(気温)の違いを利用して、通常1年に1度しか生育できない小麦を、年に2度育てる方法だ。そうすることで、品種改良のスピードが2倍になる。
当時の品種改良は1つ1つの交配が手作業で行われており、実際に播いた種が育って実ができるまで、結果がわからない。そんな中、ボーローグの方法によりその機会が2倍になり、新しい品種の絞り込みが加速した。また、環境の異なる気候にさらされることで、種子が幅広い適応力を持つという作用もあった。
こうやって小麦(米の新品種もほぼ同時期に開発された)の新しい品種の導入によって、世界の穀物の生産が増えたのが緑の革命だ。
化学肥料を多く必要とする方法なので、エネルギー的には「石油を食糧に変えて人々の腹を満たした」という表現もできるかもしれない。でも、多くの人の命を救ったことは間違いない。ボーローグもその一心で活動してきたように思える。
緑の革命を批判する人に対してボーローグは、「批判する人は飢餓が実際どんなものかなのか経験したことがない。悲惨な状況の中で1ヶ月も生活してみれば、きっと肥料や除草剤、用水路、トラクターが欲しいと懇願するだろう」と語っている。
また、有機肥料の利用については、「それ自体は素晴らしいことだが、現在使われている肥料をすべて有機肥料に置き換えることは現実的ではない」と言っている(700万トンの化学肥料をすべて置き換えるには、47億トンの有機肥料が必要だという)。豆などの被覆作物からの窒素供給を計算に入れるとどうなるのか?という疑問はあるけれど、簡単なことではないのは確かだろう。
この本を読んで、当時の状況がより理解できた気がする。あとは「では、どうして人口が食糧に先行して増えてしまうのか?」ということが気になってきた。そのあたりについても、また調べてみたい。
『ノーマン・ボーローグ』
『緑の革命とその暴力』
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