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掌編小説

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#掌編小説

【小説】2ヶ月前のチケット

 会場に近づくと、『チケット譲ってください』と書かれたプレートを掲げる人たちが増えてきた…

たま
2年前
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【小説】病室

「もう別にいいのに、お見舞いなんて」  千歳さんが、ベッドの横に吊るしてあるリモコンを操…

たま
2年前
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【小説】AIスピーカー

「サミー、おかえり」  リビングに小さな光が灯り、2秒ほどの間が空いてから無機質な声が部屋…

たま
2年前
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【小説】ピノキオみたいな

「ごめん、待った?」  肩上の長さで揃えられた髪を揺らしながら、春香が僕の元へ小走りでや…

たま
2年前
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【小説】よしゆき村

 そう遠くない昔、三陸のとある山麓に、よしゆき村と呼ばれる村があった。  正式な村名は他…

たま
2年前
2

【小説】28歳

 目が覚めると、見知らぬ部屋の見知らぬ布団に包まっていた。  起きあがろうとすると、「起…

たま
2年前
4

【小説】黒い桜

 春になると僕のベッドからは、病院の入り口のところに咲いている桜を見ることができる。この時期は花見ついでにやってくる見舞客も多く、桜を見上げたり写真を撮ったりしている。  そして、舞い散る花びらを見て恍惚の表情を浮かべながら、落ちた花びらを平気で踏みつけて、帰っていく。  夜になると僕は、部屋を出て真っ暗な廊下を歩く。これは、入院生活が始まってからの習慣となっていた。  誰もいない廊下は足音がよく響くけれど、さっとどこかに逃げてしまったように、すぐに消える。  階段を上ろう

【小説】明晰夢

 傘に当たる雨音が、どんどん大きくなってくる。  耳を塞ぎたくなるほどに煩いけれど、傘と…

たま
2年前
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【小説】直子

 学校へ向かう電車に乗りながら、スマートフォンを操作しLINEの友達リストを一通り確認する。…

たま
2年前
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【小説】ポリメリアン

「あ、ポリメリアンだ。かわいー」  見慣れた道を歩きながら、ちぎれんばかりに尻尾を振るポ…

たま
2年前
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【小説】役作り

 ギュシューッと大袈裟な音を立てながら、電車が止まる。  こんなご時世もあってか、この駅…

たま
3年前
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【小説】傷心旅行?

 「希ちゃん、明日以降の業務の引き継ぎ資料送っておいたから、目通しておいてね」  隣の席…

たま
3年前
4

【小説】ピッピ

 彼女と初めて交わした言葉は覚えていないけれど、仲良くなったきっかけは覚えている。  そ…

たま
3年前
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【小説】万年筆

 父が他界したのは、5日前のことだ。    半年前に口腔癌を患わせ、さまざまな症状に苦しみながら闘病生活を行なっていた姿を見ていたため、それから解放されたことに僕はむしろほっとした気持ちで、父の遺影を眺めていた。 「これ、売ってきてくれない?」  お通夜が終わり実家に到着し、ひと段落しようとソファーに座り込んだところ、母が長方形の箱を差し出してきた。 「何これ」  それがなんだかもわからず、箱を受け取る。  ボックスティッシュより少し小さいその箱は想像以上の軽さで、売れるよ