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【祝】ロックンロールは鳴り止まないっ【編集部のおすすめ選出】
衝撃。そんな陳腐な語彙では到底表現し切れない、まさにビッグバンにも似た脳内大爆発に、僕はわなわながたがたと四肢を震わせた。
冬で、二十代半ばで、半ニートだった。
「最近の曲なんかもうっ! クソみたいな曲だらけさああああっ!」
都内某ライブハウス。汗とヨダレと得たいの知れない汁がほとばしる、光に満ち満ちたステージ。そのド真ん中で、数千人の観客の前で、スクワイア・ジャグマスターをギャギャギャギャギャーンと掻き鳴らし、鬼気迫る表情と共に「ロックンロールは鳴り止まないっ」を絶唱する華奢な色白青年を、僕は酸素の薄い最前列付近から、確かにこの目で目撃した――。
千葉県出身の男女四人組からなるインターネットポップロックバンド、神聖かまってちゃん。二〇一〇年のメジャー進出以前から、いじめ、引きこもりなどセンシティブなテーマを扱った名曲の数々を世に排出し、たまのメディア出演ではもれなく炎上騒ぎを巻き起こしてきた、テン年代を代表するお騒がせバンドである。
神聖かまってちゃん (以下、かまってちゃん) の詳細なプロフィール、来歴等は、ここでは割愛させていただく。令和に生きるスマートな人間らしく、ささっとググりやがっていただきたい。
僕が、かまってちゃんの存在を知ったのは、忘れもしない二十一歳の夏。当時、僕はまだ片田舎の底辺大学生であり、夏期休暇の真っただ中であり、片やかまってちゃんもメジャーデビュー前の、一介の無名アングラバンドに過ぎなかった。
二十一歳の夏休み――といっても、僕は日々何もすることがなかった。アルバイトに励むわけでもなく、愛しの恋人とラブラブチュッチュするわけでもなく、ただひたすらにネット、ネット、インターネット。はっきり言って、いやはっきり言わずとも、ひど過ぎる夏休みの最中にいたのである。
大学の友人らはきっと、二十一歳の夏を、きらきらと輝く人生のゴールデンタイムを、これでもかと謳歌しているのだろう。深夜二十六時、そんなことを思いながら僕は、1Kの木造アパートにて例のようにゆらりゆらりとネットの海を揺蕩っていた。
愛用のノートパソコンを用い、ニコニコ動画、FC2と周り、そして最終的に行き着いた先はユーチューブ。
そこで、僕は出会った。出会ってしまった。
【23才の夏休み】
二十三歳ニート青年のスペクタクルもへったくれもない、何も起こらない夏を歌ったメロディアスかつキャッチーなその曲に、画質も音質も最っ低なその安っぽい動画に、僕は凄絶な勢いでもって心の真芯を撃ち抜かれてしまったのだ (ちなみにこの動画は、当時観たMVではなく竹内道宏氏によるライブ映像である)。
これ、俺のことじゃん!
そう思わずにはいられないほどに、歌詞の内容と自分自身がオーバーラップしていた。
ふと動画の再生回数を見ると「550」の文字。
とんでもないバンドを見つけ出してしまった……。
覚めやらぬ興奮、がなり立てる胸の鼓動と共に僕は次から次へとかまってちゃんのMVを視聴し、片っ端からグッドボタンをクリック。そしてほどなく、こいつら間違いなくセンセーションを巻き起こすな、などといっちょまえにそんなことを確信したのである。
僕の思惑通り、かまってちゃんは破竹の勢いで売れていった。
ドラマ「モテキ」では劇中歌として「ロックンロールは鳴り止まないっ」が使用され、アニメ「電波女と青春男」ではボーカル、の子による書き下ろし楽曲「OS-宇宙人」が主題歌として起用。同年四月には彼らの楽曲を題材にした映画が公開し、翌年八月にリリースされた4thアルバム「8月32日へ」はオリコンウィークリーチャート初登場九位を記録した。
【ロックンロールは鳴り止まないっ】
【OS-宇宙人】
僕が、かまってちゃんのライブに初めて足を運んだのは、今から数えること五年前のことである。
勤めていた会社を自己都合退職し、週四日の深夜アルバイト生活という半ニート、半廃人状態の日々を送っていた当時、同じくかまってちゃんファンの友人から「妖怪かまってちゃんネットウォッチツアー」のチケットを譲り受けたことがきっかけだった。
「俺、予定が入っちゃって、どうしても行けなくなってさ。代わりに行って、感想聞かせてくれよ」
電話口。友人からの願ってもない言葉に二つ返事で頷く僕。
その日のうちに友人からチケットを譲り受けるも、何だか妙に現実感を持てずにいた僕は、ふわふわとした気持ちのままライブ当日を迎え、
「!!!!!!!!」
そして、面食らった。
生で観るかまってちゃんは、もうとにかく圧巻であり、ショッキングの連続であり、また果てしなくカオスであった。
「おまえら、ステージ上がってこいよおおおーっ‼」
血走らせた目ン玉を引ん剥きながら、演奏中、不意に咆哮したボーカル。またすごいセリフをのたまるなぁ、と汗だくの状態で僕は思う。もっとも、実際にステージに上がろうとする猛者などいるはずもなく――。
「……え⁉」
しかし、しかしだった。直後、僕は視界の先数メートルで信じられない光景を目の当たりにすることになる。
「えええええー⁉」
ななななんと! 幾人かの観客が嬉々としてステージに上がり始めたのだ!
いまだかつて僕は映像の中でさえ、こんな混沌としたシーンを観たことがない。
(なんなんですかこれ! なんなんですかこれはーっ‼)
僕は「ちりとり」の歌詞のような気持ちを口内で叫びながら、生まれて初めて感じる心からのエモーションに終始、圧倒されるしかなかった。
「あーとー (ありがとー)‼」
曲のラストでボーカル、の子が狂ったように叫び散らす。万雷の拍手と歓声が、誰ともなしに沸き上がる。
ほとんど無意識のうちに、僕は泣いていた。四方八方、散り散りに爆ぜた感情をどうにも抑えることが出できず、止めどなく溢れ出る涙が自然と頬を伝った。その涙はライブ終演後、ライブハウスを出てからもなお、依然として流れ続けていた。
身を切るような冷気が、耳元で渦を巻く。ふと見上げた濃紺の夜空には、煌々とひしめき合う幾千もの星々。その神秘的な光に、街行く野良猫が思わず足を止める。
僕が、長らく休止していた就職活動を再開したのは、翌週のことだった。一歩を踏み出す勇気を与えてくれたのは他でもない、かまってちゃんだ。
あの日、友人がチケットを譲ってくれていなければ、かまってちゃんのライブを観ていなければ、大げさでもなんでもなく、僕はいまだに半ニート状態を貫き通していたかもしれない。
ところで――僕は今、このファビュラスな文章を満員電車の片隅にて打っている。正社員として勤めている職場からの帰宅途中、薄汚れた吊革につかまりながら、キャッキャと騒いでいる女子高生に紛れながら、大音量でiPodを聴きながら。
再生中のアーティストは、もちろん神聖かまってちゃん。
気づけば、あと一駅で最寄り駅に到着しようというところ。ゆえに、そろそろこのラブレターも締めに入ろうと思うのだ。思いのほか長くなってしまった。いかんいかん。
では、あらためて……。
ニート同然の日々を送っていた、かつての自分を全方位から全肯定してくれた彼らを、の子さんを、monoくんを、みさこさんを、ちばぎんを。僕はいくつになっても、相変わらず推し続けていくことだろう。
かまってちゃんの奏でるロックンロールは、いつの時代もきっと、轟々と鳴り続けるはずなのだ。
きっと、そうに違いないのだ。
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