【熱烈峻厳の夏期講習。闇夜を泳ぐ塾講師の朝活。】
いよいよ来週から夏期講習が始まる。
うだるような暑さの中、運命の赤い糸くずを探す余裕もなく、汗をぼたぼたと垂らしながら刻苦して塾へ向かう。8月31日まであと何日だろうかと指を折りながら蝉の声に耳を焼かれ暮らしていく姿が、ぶわぶわと陽炎で揺れる。
昼過ぎに出社。清掃、生徒の志望校の整理や学習内容の確認、授業準備、電話対応等が私の業務内容である。がらんとした教室に塾長と2人。
私たちは膨大な仕事量にひいひい言いながら、家のドアの前にゴキブリが鎮座していたと騒ぐ塾長をねぎらいながら、時に『超ときめき♡宣伝部』の菅田愛貴ちゃんについて語り合いながら、がつがつと仕事を終わらせていく。
夕方になると、大学終わりの先生や自習目的の生徒がやってくる。先生方はゆったりと優雅に授業準備を始め、私は特定の生徒からスマホを預かり、再び果てのない事務作業との戦いに没頭する。そうこうしているうちに授業開始時刻となり、生徒と先生がばたばたとブースへ入っていく。気勢のある指導とそれに応える(応えないやつもいるけど)制服の背中が塾の空気をじわりじわりと熱くする。
私は他の先生方に比べて6~8歳と、ほんのちょっぴりお兄さんなので、授業よりも事務やマネジメント方面に仕事のウェイトを置いている。一言でいえば教室全体の管理である。
「いやいやそれは塾長の仕事でしょう」という意見があるかもしれないが、これは女性塾長(25)の負担を軽減するための紳士的行動である。脳漿から溢れんばかりの愛情で人を助ける、高尚で清廉な精神を持つ私は世界の偉人図鑑に記載されてもおかしくはない。マザーテレサの横に成生隆倫のキメ顔写真が載るのも時間の問題だ。
「いやいやそれは塾長の仕事でしょう」という正論に頷きそうになったことは数えるほどしかない。
ゆえに、朝っぱらから授業が行われる夏期講習期間、教室の鍵を開けるのも偉人の任務として当然のことなのである。
「イエス、ボス!ゆっくりしてネ!」と難題も快く引き受ける。悠然と昼出社し、B'zの太陽のKomachi Angelを口ずさみながら洒落たキレのあるステップで掃除機をかけるスタートが、眠気まなこで気だるそうにコロコロをかける粗野なものに変わることなどありはしない。なぜなら私は紳士だからだ。
いよいよ来週から夏期講習が始まる。
これを機に思い切って朝活を開始してみようかという妙な思い付きが、闇夜のプリンスの克己心を蝕んでいく。早起きは三文の徳というが、実際三文など100円ちょっとである。駄菓子がちょろっと買えるくらいだ。無論、遅寝にいたっては三文の消費では済まない。
いよいよ来週から夏期講習が始まる。
これを機に思い切って朝活を開始してみようかという妙な思い付きが、闇夜のプリンスの克己心を蝕んでいく。朝早く起きるために明け方まで酒場にいないというのは、黒髪の乙女との真実の愛を手に入れるチャンスを失うことでもある。これは重大なことである。しかし、そんな明け方に黒髪の乙女などそうそういない。
いよいよ来週から夏期講習が始まる。
これを機に思い切って朝活を開始してみようかという妙な思い付きが、闇夜のプリンスの克己心を蝕んでいく。赤髪社長が『朝喝』という配信でフォロワーに勇気を与えているのならば、私は『夜渇』でエチルアルコールを与えてもらおう。もっとも、その翌日は財布も喉も『渇渇』であるが。
くだらないことはいくらでも言える。朝活しようがするまいがどちらにせよ、いよいよ来週から夏期講習が始まるのである。
始まるのである。
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