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【字を綺麗に書けない書店員が、POPを"それなりの見栄えにする"アイテムを二つ紹介する】

塾長は言った。
「もう少し丁寧な字だったら素敵だな・・・って思いますよ!」
べつにいいじゃないすか、読めるんだからさ。ぶつくさ言いながら俺は、生徒たちの期末試験日程を手書きでまとめていく。
まったく、骨が折れる作業である。
「○○日までに生徒の試験日程を提出してくれ」と学生アルバイトの先生たちに頼んでいるのだが、期日までにそろうことなどない。俺は生徒たちの学校ホームページを一校ずつ開き、年間予定表をちまちま調べ上げていく。常駐の事務員さんがいないので、フリーターの俺が代わりに仕事を振られているのである。時間のある人間は、こうやって都合よく酷使されるさだめなのだ。
成生隆倫、二十八歳。
ぴちぴちできらきらの塾講師であった。

あれから四年経った今、俺は魂を込めてペン先を紙面にぶつけている。
比較的ゆっくりと、一文字ずつしっかりと、紙にインクを滲ませていく。焦るな、正確にやるんだ。徐々に速度が上がり始めた右手をなだめる。筋肉が緊張しているせいか、思うように身体をコントロールできない。自らの意思に反し、生成される文字のクオリティは少しずつ低くなっていく。

あああー!
塾講師時代にちゃんと練習しておけばよかった!

中途半端に残った余白、あきらかにバランスの悪い文字配列。俺は小さく唸ると、紙をくしゃっと丸めてゴミ箱へ投げた。
コン。
お約束である。こういうときに限ってシュートは決まらない。床に転がったそれを拾い、もう一度投げる。ゴミ箱は俺をあざ笑うかのように、再度、華麗にふちで跳ね返す。
・・・もう!たかが数文字書くだけなのに!

昔から文字を書くのが苦手だった。
書き順を守って書いても上手く書けない。字が綺麗な人の書き方を真似してみても、各パーツが小さすぎたり大きすぎたりと違和感ぎゃんぎゃんで気持ち悪い。俺の字は決して読めない字というわけではない(はず)。ただ、人前で披露するものとしてはちょっと出来が悪いのである。

そこで俺は考えた。綺麗に書こうとするからいけないのだと。
POPは「この人、字が綺麗だね~」と言われることを目的に作っているわけではない。つまり、なにも達筆である必要はないのだ。インパクトがあって、ちゃんと読めればいい。絶妙な粗雑さも味として受け入れてもらえればとりあえずオッケーなのである。

ここで登場するのが筆ペンと油性ペンだ。この二つを駆使することで、俺は能力の低さを隠蔽することにそこそこ成功している。(と思っている)
この両方に共通するのは、どちらもフィジカルがあるという点だ。リフティングが全然出来なくても、フィジカルでゴリ押しすればコーナーキックからゴールを奪える!
的なことである。 

文字の書き方で悩んでいる人がいたらぜひ活用してみてほしい。

●筆ペン
これは迫力と勢いで押し切ることができる有能アイテム。多少失敗しても、上からもう一度塗りつぶして字を太くしてしまえばいい。微妙に気にくわない細かな箇所は、筆先でちょんちょんと調整してやればそれなりになんとかなる。まあ書道の先生がみたら発狂する技であるが、幸運なことに彼らの監視はない。
しかしインクが少ないと字にムラが出てしまい、その後の修正作業が非常に面倒なことになる。インク残量が充分かどうか、確認してから使いたい。

●油性ペン
こいつはマジで万能だ。最も簡単にPOPっぽい雰囲気を出すことができる。
なぜ水性ペンではないのかというと、油性ペンの方が色が濃いからである。油性ならではの滲みっぷりも相まって、文字の太みも出せるのがまじで素晴らしい。
しかし、画数が多い漢字や、一画一画が近い漢字を書く際には注意が必要。細い方のペン先を組み合わせるなど、臨機応変な対応が求められる。


いわゆるPOP職人と呼ばれる人間たちは、完全にアーティストの領域にいる。
SNSを見てみよ。もうこれだけで食っていけるやろ、というレベルの作品を彼らはじゃんじゃん投稿している。
それらに匹敵するものを己は作れるか。
否。即答である。
ばらかもんを熟読しても、岸辺露伴になりきっても、絶対に上手くは書けないし描けない。

なので、もう誤魔化そう。
技術の無さは情熱や愛や強さでカバーしまくるのが吉。それで売れれば勝ちである。押し出すべきはPOPに込められたソウルとパワーなのだ。

POPはお客さんへのラブレター。
全身全霊で愛を伝えるのが一番大切。
もちろん、購入に至らずフラれる回数の方が多いに決まっているが、(そんなことないよ、両想いばかりだよって人はさっさとこの画面を閉じてくれ。己が可哀そうになる)それでも膝を折ってはいけない。

「こいつ、字ヘタじゃねw」とギャルJKに笑われたっていいじゃないか。
いつか褒めてくれるゴッデスに出会えればそれでいいじゃないか。

さあ、明日は何のPOPを作ろう。
何度も書き直しとなる苦悩も、塾講師時代に練習しなかったという後悔もすべてひっくるめ、やっぱり俺はPOP制作という作業が大好きなのである。

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