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戦略プロフェッショナル①:着任直後の「業績と戦略」の全体俯瞰(+ベンチャーキャピタリストの投資判断基準の一つは「●●●●」の高さ)
読書ノート(166日目)
今回から、三枝匡さんの四部作の一冊目「戦略プロフェッショナル」を紹介していきます。
この本との出会いは今から約16年前でした。大学院時代にMBAを修了するまで、200冊以上のビジネス書を読んだと思いますが、その中でも最も衝撃を受けて強く記憶に残っているのが、この「戦略プロフェッショナル」です。
このたび前著から大幅に加筆をされた決定版が2022年に発刊され、改めて読み直しましたが、学びと気付きの金言が詰まった読み応えがある、素晴らしい本でした!
この感動をどこまでうまく整理してお伝えできるか分かりませんが…今後の自分自身のためにも読書ノートに投稿してみます。
・本書を紹介する前に…、四部作についての補足情報
三枝匡さんの四部作に共通する内容は、三枝さんが戦略プロフェッショナルとして数々の企業を再生してきた様子を、まるでドラマのようにストーリー調で物語が進行していく実話です。
三枝さんの仕事ぶりは「猛烈な熱量のアツい仕事人」という印象に加えて、好き嫌いの政治性ではなく「正しいか正しくないかの論理」に基づいて次々と経営判断をして企業を改革していく様子は、まるで"リアル半沢直樹"のようにも個人的には感じました。
読んでいて胸がアツくなりスカッとしたり感動する事に加えて、本書に登場する経営戦略・競争戦略の解説、企業再生のプロとして負け戦になっている組織の人々の心をどう動かしたのかという、三枝さんの「戦略と志」を本書を読むことで追体験できる、経営書としても非常に学びの大きい内容です。
ぜひ多くの方々に手に取って頂けたらと思っています!✨
・戦略プロフェッショナル①: 「全体俯瞰で見る」
それでは本書の内容です。
今日は初回ですので、主人公の黒岩莞太(実際は三枝さんご本人)と、立て直しをする企業「新日本メディカル」の概要を紹介することにします。
「戦略プロフェッショナル」①
・三枝匡さんが32歳の頃の実話。それまでの経歴は三井系企業、
戦略コンサルティング会社、スタンフォード大MBAを修了
・外資と財閥系企業の合弁会社「新日本メディカル」
(本書用の架空の会社名)の立て直しのため、
常務取締役として外部から着任。翌年に同会社の社長に就任。
・本書では、三枝さんは「黒岩莞太」という名前で登場
・「全体俯瞰で見る」
・黒岩は着任してすぐ誰もが必ず最初に行う作業である
「業績と戦略」の全体俯瞰に着手
・新日本メディカルは120名の会社
・ほぼ全ての商品の開発、生産は米国の親会社テックス社で行い、
新日本メディカルは米国テックス社から輸入して販売している
ローカル販売会社という位置づけ
・社員の平均年齢は低く、管理職は30代、営業は20代後半が多い
・新日本メディカルの主力事業は大きく2つ
「医療機器事業部」と「プロテック事業部」
・医療機器事業部
・会社の売上高の約7割を占める主力事業
・年間売上は約27億円、前年比30%の伸長
・ただし市場全体の伸びはもっと高く、競争は激しい
・新日本メディカルは市場では競り負けている状態で
過去10年間、マーケットシェアは低下し続けている
・価格も毎年低下の傾向、新日本メディカルは販売商品を
米国の親会社から輸入している都合上、自主的なコストダウンが困難で
他社との価格競争についていけず粗利益率は悪化
・その結果、今年度の売上は30%の伸長だが、
営業利益率は1%の伸びに留まっており、来年度は赤字転落の予測
・プロテック事業部
・販売する商品は米国の親会社系列から輸入しており、
年間売上は約8億円、前年比11%の伸長
・市場全体の成長率はそれほど高くはなく
競争的にはそれほど負けている状況ではない
・典型的な少量多品種の業界のため、戦略的解釈が重要
・少量多品種の事業の粗利益率は、顧客のニーズに
キメ細かく合わせる分、粗利益率は高くなって当然という一般原則がある
・プロテック事業部の粗利益率は79%と抜群の高さ
(医療機器事業部の粗利益率は43%)
・ただし少量多品種の事業のため、1品ごとの
流通費用や在庫負担なども大きくなり営業利益率は20%
(医療機器事業部の営業利益率は7%)
・新たに着任した黒岩の仕事は、来年度は赤字転落予想の
医療機器事業部と高収益のプロテック事業部という状況のなか
会社の業績をいかに伸ばしていくか
・日米の親会社の両社とも黒岩が着任する目的は
「医療機器事業部の再建」とされていたが、
黒岩は新日本メディカルの経営活性化には、
プロテック事業部も一つの突破口になり得ると考えた。
まずは常務として外部から着任した黒岩莞太が行った全体俯瞰、
「業績と戦略」についてでした。
今回は自社の2つの主力事業の現在地を、業績面では主に粗利益率から、
戦略については、市場成長度・競合との競争の勝ち負けの状況から分析しています。
そんな中、黒岩莞太は粗利益率が高いプロテック事業部にこそ突破口があるはずだと判断し、1年目は医療機器事業部の再建に集中するものの、2年目以降はプロテック事業部の改革に着手することになります。
・ベンチャーキャピタリストの投資判断基準
三枝さんは32歳で外資合弁会社(本書では「新日本メディカル」)を再建させた後、30代後半でベンチャーキャピタル会社の社長に就任することになるのですが、当時の経験から以下の言葉が本書の中で紹介されています。
シリコンバレーのベンチャーキャピタリストから投資判断の基準を聞いたところ、その答えの一つは「粗利益率の高さ」があった。
粗利益率が低いとベンチャーを立ち上げたあと、いくら働けども利益が出にくいが、粗利益率が高ければ、売上高が伸び始めれば黒字転換までの期間が短く、次の攻めに使えるキャッシュの創出も早まるため
時間軸は前後しますが、32歳で外部から着任した黒岩莞太が事業の業績を分析する際に当時から「粗利益率」に注目していたというのは、一貫しているメッセージにも感じました。
・三枝さんが事業再生をする際に注目している視点
今回は「少量多品種のビジネス=粗利益率が高くなるはず」
という戦略フレームワークが登場しましたが、三枝さんの頭の中には、このような「〇〇ならば、✕✕であるはず」という智恵の蓄積が凄く、ちょっとした違和感に瞬間的に気が付けるようです。
三枝さんが事業を再生する際に注目していることとして、
このような説明を動画内でされています。
事業には様々な病気の症状があり、それまでの経験から
パッと見たときに見える景色のなかで、「あるべきものが無い」
または、「無くていいものがある」といった
「変だな」という異常に気付けることが経営者の腕
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この話の中での「『事業の病気の症状』に気付けるかどうかが経営者の腕」ということについて、本書の新日本メディカルでも数多く登場するのですが、次作「V字回復の経営」では、担当する会社が7年連続の赤字経営ということで、実に全41種の症状が紹介されています。
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この症状リストを見ながら、自分の過去の経験をふと振り返ってみると、「あの時の会社の状況は"症状26"だったなぁ…」などと気付くこともあり、事業を改革する上での違和感の智恵リストとしても重宝しそうです。
ということで、少し長くなってきましたので今回はこの辺で!
それではまたー!😉✨