「ついやってしまう」体験のつくりかたを読んで、エンタメと人生の共通点を考えた。
『「ついやってしまう」体験のつくりかた』を読みました。
おもしろかったので、読書感想文を書こうと思います。
この記事は、前の記事に続く第2回となります。
よかったら、あわせて読んでみてくださいね。
人生もゲームも「難易度選び」が必要だ
筆者は「マリオ」などを例に挙げて説明しています。
Bダッシュをするか/しないか によって到達できる距離やスピード、リスクが変わる。
目指すゴールは同じでも、そこまでの行き方や手法(=難易度)をプレイヤーが自然に選択できることが大切、と。
この説明を読んで、私は考えました。
ああ、人生も同じだ。
私たちは「幸せになったものが勝ち」「この世を去ったら終了」というゲームのプレイヤーだ。
――なんて、少し大げさでしょうか?
何を学ぶのか、どんな職業を選択してキャリアを積むか、どういったことに時間を費やすのか。
ある人は高みを目指して過酷な中でも進み続け、別の人はマイペースにでも豊かになっていく。そのどちらも正しい。
私たちは、各々が自然とプレイスタイルや難易度を選びながら、幸せというゴールを目指している。
そんなふうに考えると、いいゲームは人生の縮図のように思えませんか?
不要不急だからこそ、欲しくなるものを
私は普段、文章を書いたり、演劇などの作品制作を手掛けたりしています。
演劇をはじめとするエンターテイメントは、近年のパンデミックにおいて「不要不急」なものとして扱われる場面が多く見られました。
現実問題として、残念ながら「確かにそのとおりだな」「仕方ないな」と思っています。
さて、パンデミックよりも前の2019年に発売された本書ですが、こんな記述がありました。
これは、任天堂の元社長だった、故・岩田聡さんの言葉だそうです。
シンプルな言葉に「そりゃそうだよな」と納得させられると同時に、考えさせられました。
自分の作品には「驚き」があるだろうか?
著者は岩田さんの「驚き」という言葉を、「プレイヤーの予想を裏切り驚かせる」こととして説明しています。
これはゲームに限らず、演劇などのエンターテイメントも必要な考え方で、作品をつくるにあたり、常に問い続けるべきポイントではないでしょうか。
それもシナリオの驚きに留まらず、体験全体に驚きを用意できているか。
たとえば演劇なら「告知を見て、チケットを買い、劇場に来て、作品を見て、家に帰るまで」の体験の中で、どう驚いてもらうか。
とてもあたりまえのことですが、よく考えるべきだと思い直しました。
また、本書の別の章では、著者がこんな一行を書いています。
これもまた、生活必需品ではないエンターテイメントだからこそ、大切な考え方だと思います。
本能的にわくわくしたり、気になったりするような体験ならば、より多くの人に自発的に求められるものになりますよね。
脚本術の名著に『SAVE THE CATの法則』があるのですが、そこにも似た表現でこう書かれています。
私たち人間誰しもが持つ、本能的で原始的な欲求を探し、核とすること。
いつの時代であっても、より多くの人に届く体験をつくるために。
エンターテイメントは不要不急といわれ、情報があふれる今だからこそ、「本能的なもの」を省みたいと思いました。
私が勇気をもらった言葉
この記事もそろそろ終盤ですが……
私が本書の中で、最も気に入った言葉を紹介します。
私の心に静かに留まった一節、とても勇気をもらえる言葉でした。
読みながら、作品制作で迷走した時のことを思い出していました。
いつも、制作のスタートが楽しくも苦しいのです。
「作る」と一口に言っても、どんなことをテーマにすべきだろう?
この作品は受け入れてもらえるだろうか?
ああ、何も浮かばない。自分はこのキャリアに向いてないんじゃないか。
創作意欲なんて枯れてしまったんじゃないだろうか。
――お恥ずかしい話ですが、こんなふうに、ぐるぐる悩んでしまうのです。
そんな時、著者の言葉を思い出せば、力強い支えになると思いました。
創作のセオリーとか、マーケティングも大切ですが、それは二の次。
まずは、自分の感情を突き動かした体験こそが、クリエイターにとって大切な初期装備になるんですね。
おわりに
「ゲームデザインの本なのかな?」と読み始めましたが、それ以上の広がりを感じる本でした。
自分の創作活動や過去の失敗にも結びつくポイントがあり、あらゆる場面における「体験」を考えて作ることの面白さや大切さを教えてくれた良書です。
この記事では紹介しきれないほどに、体験をデザインするためのエッセンスがつまっており、体系的にやさしい言葉で書かれていますので、気になった方はぜひ読んでみてください。
本書を読み進めることで、新しいなにかが体験できるかもしれません。