五輪選手は緊張したらどうしてる? 眠れない夜に効く仏さまの話
五輪選手の森末さんが、子どもたちに伝えた一言
かつて本誌の相談コーナーに、「いつも人の前で話をしたりするとき緊張してしまいます。どうしたら良いでしょうか」と相談が寄せられたことがありました。今年はオリンピックの年ですが、オリンピックというといつも思い出すシーンがあります。
40年前のロサンゼルスオリンピックで、森末慎二さんが鉄棒で10点満点をとって金メダルを獲った時のシーンです。完璧な演技ができた手応えがあったのでしょう。着地して演技を終えた森末さんは両手を挙げてガッツポーズをしました。
それから十数年後、現役を引退してタレント活動をしていた森末さんが、NHK の番組の『課外授業 ようこそ先輩』に出演していました。著名人が母校の小学校に戻って授業をするという番組です。
小学生に跳び箱を教えていました。最初はうまく跳べなかった跳び箱も、手取り足取りの指導でみんな跳べるようになっていきます。番組では、授業の最後の日は、大勢が観ている中で、跳び箱を一人ずつ跳んでもらうという発表会でした。
森末さんは、発表会の前日、最後の練習を終えた子どもたちを集めて翌日の発表会のことを説明していました。そのときこんなことを言っていました。「明日は発表会。跳べるようになった跳び箱を1人ずつ大勢の人の前で跳んでもらいます。そのときみんなはきっと緊張するでしょう。緊張したら〇〇〇〇」と言ったのです。番組を遠目で何気なく観ていた私は、「この人、凄いこと言う人だなあ」と感心しました。
さて、森末さんは何とアドバイスしたでしょうか。
森末さんは子どもたちに、「緊張したら緊張したまんま跳んでごらん」と言ったのです。その後、ご自身のオリンピックの体験談をお話していました。最後の演技の時の話でした。最後うまくいけば金メダルが獲れると思った時、今までで経験したことのないような緊張がおとずれたそうです。緊張が取れないまま自分の番が来てしまい、最後の演技をしなければならず行ったそうです。結果は10点満点で、念願の金メダルを獲れたというのです。
生き方に条件をつけない仏さま
多くの人は、どうしたら緊張しないで臨めるかを考えますし、みなが緊張しないためのアドバイスをします。しかし、森末さんは違いました。緊張したらどうしようと心配していた子どもたちは、肩の力がスーッと抜けたような思いになったのではないでしょうか。もちろん、うまく跳べた子もいれば、うまく跳べなかった子もいましたが、とても良い経験だったでしょう。
よくよく考えますと、阿弥陀さまという仏さまは、私たちに同じように言ってくださっているのでしょう。こう生きなければいけないとか、こういう最後でなければいけないとか、私たちに条件をつけていない仏さまなのです。こうしなければいけない。こうしてはいけないと肩肘はって生きてきたけれど、思うように生きることができない私が、何一つ心配することはなく、そのままわが身をまかせていっていいのだと聞けたとき、「あー、よかった」と肩の力が抜けた思いになれるのでしょう。
宮本 義宣(みやもと・ぎせん)
1962年川崎市生まれ。大学卒業後、企業で広告デザインの仕事に就く。その後、結婚を機に自坊の髙願寺に戻り、2005年住職を継職。武蔵野大学通信学部講師、東京仏教学院講師などを務める。
※本記事は『築地本願寺新報』掲載の記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。