
当り前のように続く「慣習」を見直すために見落としてはいけないこと
(写真は「コーチ」の語源となったハンガリーの馬車:2014年5月撮影)
「日本の慣習」
「業界の慣習」
「地域の慣習」
良い伝統が思い浮かぶこともあるでしょうし、何故こんなことしなければならないのか、と不文律のようなものを思い出すこともあるかもしれません。
かん‐しゅう【慣習】
1 ある社会で古くから受け継がれてきている生活上のならわし。しきたり。「古い慣習を破る」
2 慣れること。習慣となるようにすること。
小さな社会集団の「習慣」と呼ぶようなものも含めると、組織の中にも「慣習」と呼べるものがあるかもしれません。
「慣習」は社会集団の帰属意識の強化や安定存続のために受け継がれてきたのでしょうが、急速な社会の変化の中で、その社会集団において役割を果たさないばかりか、不利益をもたらしているものもあるように思われます。
今回は「慣習」を見直すために見落としてはならないことについて見ていきます。
日系人社会の慣習
国籍としての日本人ではなく、人種としての「日本人」、すなわち日系人が日本国外で最も多く住んでいるのは、ブラジル、ハワイ、南カリフォルニアです。
「Gan nen mono (元年者)」と呼ばれる明治維新中の移民、戦前・戦後の移民がこれらの地域に多数住んでいます。
次期は別としても、一世、二世、三世と世代が進むに連れて、日本語の使用や日本の文化習慣からは疎遠になっていきます。
しかし、同時に世代が進んでも受け継がれている日本の文化・慣習などもあります。
南カリフォルニアに2009年〜2014年まで住んでいる間に目にしたのは、お正月に家族・親族や友人が集まって行われる「餅つき」です。
日本でも個人の集まりでは、見ることが少なくなった「臼と杵」を使って「餅つき」をします。
また、夏には「盆踊り」も地域の日系人社会で行われています。
2019年に映画の題材となった奄美大島や琉球列島で行なわれていた「洗骨」という葬制は、現在もブラジルの日系人の間でわずかながら続いているという話しを聞いたことがあります。
日本国では土葬や風葬が法律で禁じられていますので、「洗骨」は違法になってしまうため、行われなくなっているのですが、土葬も風葬もできるブラジルでは受け継がれているのでしょう。
切り離されて存続する
話しは飛びますが、言語学の世界ではよく知られている興味深い現象があります。
イギリス移民を中心として1776年に大英帝国から独立したアメリカで使用されているアメリカ英語とイギリス英語では、アメリカ英語の方が古い英語の用法や発音が存続していると言う現象です。
シェイクスピア(1564-1616)の時代に話されていた英語の発音、特に母音の発音はアメリカ英語に受け継がれ、イギリス英語は進化して別の発音へと変遷したのです。
これと同じようなことが、「餅つき」「洗骨」などの日系人の慣習において起こっていると思われます。
日本では「餅」を食べるためには、透明なビニールに個別包装された「餅」を買ってくるのが一般的でしょう。
せいろ、臼、杵を家庭で所有していて、毎年のように餅つきをする日本人は非常に少ないと思われます。
竜宮城で暮らす「浦島太郎」同じような状態といってもよいかも知れません。
オリジナルの文脈から切り離された「慣習」が、そのまま継続しているのです。
慣習を見直す時に
本題に戻りましょう。
これらの例から、時代遅れや無益や有害な「慣習」を意識的に変える際に学ぶことをあげてみます。
1.文脈
歴史を遡って、その慣習や風習が始まった時の文脈や背景を探ることが、見直しのために役立ちます。
なぜ、そのようなしきたりが始まったのかを時代背景を知ることで、時代背景が異なっていることを認識して変化を受け入れることが容易になります。
2.機能
慣習は社会集団の帰属意識や安定的な存続に関係する機能を果たしているのですが、法律などでなければ、明文化されていることは少ないでしょう。
その風習や慣習が、具体的にどのような機能を果たしているのか、または果たしていたのか?を明確に表出化させることによって見えてくることがあるはずです。
3.代替
慣習をやめようとするときに、「文脈」と「機能」を明確にした上で、代わりになるものを新たに用意することも必要になるかも知れません。
年賀状をやめようと言っても、その代わりになる「年賀状」の果たしていた役割を代わりに担うものがあれば、新たなものに移行することが用意になることもあるでしょう。
もちろんここで、年賀状が有害な慣習であると言っているわけではありません。あくまでも例です。
これは、慣習と呼ばれるものだけではなく、組織の中で、当り前、常識となっている様々な「組織文化」にも当てはまるように思われます。
急速に時代が変化してゆく中で、より良い社会への貢献をするために変革されて行くことを願っています。
最後までお付き合いくださりありがとうございます。
