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どこでも読書日和♪
「私も時々思ってたんだよね。今この場所に本があったら、いいのになーって!」
ウサギは展示会場の中で、目を輝かせながらカメに話しかけた。
「乗りたい電車がくるずーっと前に駅に着いちゃったとき、こんなふうにサッと本が読めたら最高じゃない?」
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「ジムでいっぱい汗をかいたあとも、心地よい疲れに包まれながら、物語の世界にふわりと飛び込めたら…最高じゃない?」
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「ほら、本が読める温泉はもうあるんだって!しかも…北海道!行くしかなくない?」
ウサギは興奮気味にカメの腕を引いた。
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「ふらりと散歩に出た公園で、偶然、読みたかった本に出会うのもいいわね…」
「本はこう言うの…『僕たちがここで出会ったのは、きっと運命だよ』なんて…」
「きゃーっ、もう素敵すぎる!」ウサギは、くるりとカメのほうを振り向いた。
「…ん…」
カメは、むにゃむにゃ言いながら、本のページをぱらりとめくった。
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「こういうのはどう? ランニングしてるときに、本が物語を語ってくれるの…」
「彼ったらさ、『いい感じだね!もっとペースあげちゃおうか?』とか言うの! もう心拍数、爆上がりよ!」
「……」
カメの目は、本のページから一度たりとも離れない。 ウサギはふぅっとため息をついて、最後の切り札を出した。
「じゃあ、こんなのはどうかしら? 星空の下で本とおしゃべりするの! ページをめくるたびに、文字がピンクに光ったりして… きゃーっ、なんか照れちゃう!」
「…って、カメくん、ちゃんと聞いてる?」ウサギはカメの袖をくいっと引っ張った。
「…え? 何か言った?」
カメは手に持っていた本から、やっと顔を上げた。
「もう、せっかく展示見に来たのに、ちゃんと見てる?それに、私の話もぜーんぜん聞いてなかったでしょ?」
ウサギはぷくっと頬をふくらませて、カメをじとーっと見つめた。
カメは申し訳なさそうに本を閉じた。
「キミに物語を話せるように、僕もたくさん本を読まなきゃって思ったから…」
「そ、そうだったの…」ウサギのぷくっと膨らんでいた頬は、みるみる赤く染まっていった。