美しい本に出逢う。
美しい装丁の本は、
人の手に取られる運命にある。
手元に置いて本そのものを見て撫でて、
中身の文章を読んで味わう。
本まるごとを愛するのだ。
鞄に気兼ねなく入れて、
道行きのお供にしたくなることだろう。
灯光舎 本のともしび
寺田寅彦の《どんぐり》を読んだ。
亡き若き妻の思い出を語る随筆だ。
それはないよ寅彦さん、と思うような
亭主関白的な部分もあるけれど。
天真爛漫な妻のおこないひとつひとつが
可愛らしい。
植物園の温室で、
草を触った指先の匂いを嗅ぐ仕草。
どんぐりを沢山沢山、夢中で集めるお茶目さ。
それが失われてしまったと知っているからこそ、
その無邪気さに、胸打たれるのだった。
亡くなった人の思い出を語る文章は、
行間に透明な光が溢れている。
それがこちらの目を眩しく射るものだから、
切なくなるのだ。
《どんぐり》を読んだ中谷宇吉郎が
(雪は天から送られた手紙。と言った科学者。
初めて人工雪を作った人物)
解説しているのも興味深い。
ほかに収録されている
《コーヒー哲学序説》もいい。
どうしたって美味しい珈琲が飲みたくなる。
そうさせるのは、良い文章の証だと思う。
*
本の装丁は、
触れたことのない文章を手に取らせる魔法、
なのかもしれない。
表紙に惚れて買ってみた、
というのが理由でも
全くかまわないと思う。
見た目や手触りから入って読むことに繋がり、
それが心の内側を広げるのだから。
世界の深みと広さを教えてくれる本に
今日も、明日も、
出逢いたいものだ。
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文章を書いて生きていきたい。
✳︎
紙媒体の本を創りたい。という目標があります。