疲労とパフォーマンス。Sports Medicene誌掲載の最新フレームワーク
📖 文献情報 と 抄録和訳
疲労とヒューマンパフォーマンス:最新のフレームワーク
[レビュー概要]
■ EnokaとDuchateauらが提唱したTrait fatigueとState fatigue
・疲労は、研究分野によって文献上異なる定義がなされてきた。疲労という用語の一貫性のない使用は、科学的なコミュニケーションを複雑にし、それによって現象のより深い理解への進展を制限していた。
・そこで、EnokaとDuchateau(📕Enoka and Duchateau >>> doi.)は、Trait fatigue(すなわち、個人がより長期間にわたって経験する疲労)とState fatigue(すなわち、運動または認知タスクの2つの相互依存属性パフォーマンス疲労性と知覚疲労性から得られる自己報告による障害症状)を区別する疲労フレームワークを提案した。
■ このNarrative Reviewの目的
・これにより、パフォーマンス疲労性は客観的なパ フォーマンス指標の低下を表し、知覚疲労性はパフォーマ ーの完全性を規制する感覚を意味する。
・この枠組みは、疲労の心理生理学を解明するための良い出発点となったが、いくつかの重要な側面が含まれておらず、パフォーマンス疲労性と知覚疲労性の駆動メカニズムの相互依存性については、包括的に議論されていない。
・そこで、今回のナラティブレビューの目的は以下の3点
(1)EnokaとDuchateauが提案した疲労フレームワークを更新することを目的とし、分類法に係る(すなわち、認知パフォーマンス疲労と認知疲労知覚が追加された)、従来考慮されていなかった重要な決定因子(e.g., effort perception, affective valence, self-regulation)
(2)運動課題および認知課題に対するパフォーマンス疲労および知覚疲労のメカニズムおよびそれらの相互依存性について議論し、
(3)これらの相互作用に関する将来の研究に対する提言を行う。
■ 最新のエビデンスを加味したフレームワークを提案
・運動・認知課題誘発性状態疲労を、運動・認知パフォーマンスの低下(運動・認知パフォーマンス疲労)および/または疲労知覚の増大(運動・認知疲労知覚)を特徴とする心理生理学的状態として定義することを提案する。
・これらの次元は、相互に依存し、異なる決定要素に依存し、身体の恒常性(例えば、覚醒度、体 温)およびいくつかの調節因子(例えば、年齢、性 別、疾患、運動または認知タスクの特徴)に依存す る。
・その結果、運動課題または認知課題に対する パフォーマンス疲労および自覚的疲労を決定する主要因は、1つではない。その代わり、各決定因子の相対的な重要度やそれらの相互作用は、複数の因子によって調整される。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
疲労という概念が、あまり好きではなかった。
なぜなら、それは考える対象として、あまりに広い領域を有する海だったからだ。
人間は、一度に思考のまな板であるワーキングメモリの上に置くことのできるデータ量が決まっていることが知られている。
諸説あるが、『マジカルナンバー7±2』。
ひとが、一度に対峙できる情報量(ワーキングメモリ)は7±2個ほどと言われている(📕Miller, 1994 >>> doi.)。
僕たちは、雑然と並んだ100個には辟易としてしまう。
だが、25個ずつ梱包された、4つなら扱える。
1対4なら勝てる。
だから、『疼痛』とか『関節可動域制限』とか、今回の『疲労』とか膨大すぎて扱いにくい対象を目の前にしたときには、フォルダ分けして理解することが良いだろう。
そういう営みを、チャンク化と呼んだりする。
今回の論文は、疲労においてそれをやってくれた。
疲労という大洋は、4つの領域(+身体のホメオスタシス、調整因子の知識)に分かれていて、それぞれの下位項目もしっかり示されている。
今後、ぼくの疲労に対する理解は、この4つのフォルダの中に収束していくことだろう。
そして、フォルダ内の知識が増えすぎた時には、そのフォルダ内に新たな区分を作ってゆけばいい。
疲労という大海は、見渡すことのできるいくつかの領域に分けられ、それぞれの領域に名前がついた。
すると、疲労という全体像の輪郭がくっきりと見え出した。
不思議なことに、いまでは、疲労という概念が少し好きになった。
はっきり対象を知ることは、その対象との結びつきを強めるのかもしれない。
知は絆なり、か。
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